大みそかの刑事事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部が解説します。
大学生のAさんは、平成最後の大晦日を祝おうと、大学のサークル仲間10数人と東京都渋谷区の居酒屋に集まりお酒を飲んでいました。
お酒を飲んで酔払ったAさんたちはどんちゃん騒ぎをしてしまい、お店のグラスを割ったり、ふすまを破ったりしてしまいました。
騒ぎを聞いたお店の店員が110番通報しましたが、警察官がお店に到着する前にAさんは仲間と共に、飲食代も支払わずお店を逃げ出しました。
翌日、酔いのさめたAさんは自分たちのしたことを思い出し、このままでは逮捕されるのではないかと不安です。
Aさんは、お正月から、法律相談をしてくれる弁護士を探しています。
(フィクションです。)
◇器物損壊罪◇
Aさんたちの行為が何の法律に抵触するのかを検討します。
お店のグラスを割ったり、ふすまを破る行為は刑法第261条に定めらている器物損壊罪が成立するでしょう。
器物損壊罪は、人の物を壊したりした場合に成立する犯罪で、起訴されて有罪が確定すれば「3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料」が科せられます。
器物損壊罪は、親告罪ですので、被害者等の告訴がなければ起訴を提起することができません。
それでは、Aさんたちにも、器物損壊罪が適用されるのでしょうか。
◇暴力行為等処罰に関する法律違反◇
あまり聞きなれない法律ですが、暴力行為等処罰に関する法律という法律があります。
この法律に、集団的、常習的な器物損壊事件を厳しく罰するための条文があります。
~集団的器物損壊罪(暴力行為等処罰に関する法律第1条)~
団体若しくは多数の威力を示して器物を損壊すれば「3年以下の懲役又は30万円以下の罰金」が科せられます。
上記している器物損壊罪の法定刑と比べていただいたら分かるように、器物損壊罪の罰則には規定されている科料が、暴力行為等処罰に関する法律の集団的器物損壊罪がありません。
一見すると器物損壊罪が適用されても、暴力行為等処罰に関する法律の集団的器物損壊罪が適用されても大きな違いがないように思われますが、暴力行為等処罰に関する法律の集団的器物損壊罪は「非親告罪」である点で、器物損壊罪と大きな違いがあります。
親告罪である刑法の器物損壊罪が適用された場合、検察官が起訴するまでに、被害者と示談することによって、被害者が告訴しなかったり、被害者が告訴を取り下げれば加害者に刑事罰が科せられることはありません。
しかし暴力行為等処罰に関する法律の集団的器物損壊罪が適用された場合は、非親告罪ですので、例え、示談が成立して、被害者が告訴しなかったり、被害者が告訴を取り下げた場合でも、検察官に起訴される可能性があります。
今回の事件でAさんたちは、集団で器物破損事件を起こしているので、この暴力行為等処罰に関する法律の集団的器物損壊罪が適用される可能性が非常に高いです。
仲間と共同して器物損壊事件を起こしている点で、刑法第60条でいう「共同正犯」が成立するという意見もありますが、共同正犯が成立するまでの共謀があるかに疑問があります。
実際に、渋谷区で起きた今年のハロウィン騒動では、集団となって軽トラックを横転させた若者が、暴力行為等処罰に関する法律違反で検挙されています。
◇無銭飲食について◇
Aさんたちは、飲食代を支払わず居酒屋から逃げ出しています。
いわゆる無銭飲食ですが、Aさんたちの行為に詐欺罪を適用するのは難しいでしょう。
最初からAさんたちに支払う意思がなく入店していたのであれば別ですが、今回の事件でAさんたちは、店員が警察に通報したことを知って逃走しているのであって、支払いを免れるために逃走したのではなく、詐欺罪の成立に必要不可欠とされている、欺罔行為や詐欺の故意が、Aさんたちにはないからです。