~事件~
東京都文京区で運送業を営んでいるAさんは、毎日トラックで取引先を回り荷物を回収しています。
先日、東京都文京区の取引先前の路上に止めてある自転車が邪魔で、トラックが取引先の敷地内まで入れずに、この自転車の持ち主に注意しました。
しかし、翌日、再び同じ場所に自転車が止まっていたので、Aさんはこの自転車をトラックに積んで持ち帰ってしまったのです。
その状況が防犯カメラに撮影されていたことから、Aさんは窃盗事件の犯人として警察に呼び出されて取調べを受けています。(フィクションです。)
みなさんが一番身近に感じる犯罪の一つが窃盗事件です。
窃盗事件が成立するには「不法領得の意思」が必要となりますが、このような法律的な用語を聞いても納得できない方が多いのではないでしょうか?
今回のAさんの事件を参考に刑事事件に強い弁護士が「不法領得の意思」を解説します。
~窃盗罪~
説明するまでもなく、人の物を盗ると窃盗罪になります。
このことだけを考えると、Aさんの行為は窃盗罪になりますが、法律的には窃盗罪が成立するには、不法領得の意思をもって他人の財物を窃取する必要があります。
~不法領得の意思~
「不法領得の意思」とは、権利者を排除して他人のものを自己の所有物として振る舞い、その経済的用法に従い利用又は処分する意思を意味します。
これを分かりやすく解説すると、その物に対して何の権利もない者が、その権利のある者を無視して、一般的な方法でその物を使用したり処分することです。
窃盗罪だけでなく財産犯罪には、この不法領得の意思が必要とされています。
~Aさんの事件を検討~
Aさんの行為が窃盗罪に当たるかどうかは、犯行時、Aさんに不法領得の意思があったか否かによります。
Aさんに「持ち帰った自転車を使用する」「人に譲る」「リサイクルショップに売る」等の意思があれば、これが不法領得の意思になるので、Aさんの行為は窃盗罪に当たります。
逆にAさんが「自転車の所有者を困らせるために自転車を持ち帰った」「荷物の回収の邪魔になるので持ち帰った」という意思のもとで自転車をトラックに積んだのであれば不法領得の意思が認められず、窃盗罪が成立しない可能性があります。
当然、その後Aさんがどのように自転車を処分したのかによっても、窃盗罪の成立が左右されるでしょう。