別件逮捕について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部が解説します。
◇事件◇
覚せい剤取締法違反(使用)の前科2犯のAさんは、先日、あきる野市のアパートで同棲している交際相手の女性と口論になりました。
怒鳴り声を聴いた近所の人が110番通報したことから、警視庁五日市警察署の警察官がアパートに臨場し二人の仲裁に入ったのですが、そこでAさんに覚せい剤使用の前科があることが発覚しました。
Aさんは、警察官に任意採尿を求められましたが、Aさんは、3日前に覚せい剤を使用していたことから、その発覚をおそれて、任意採尿に応じませんでした。
すると警察官は、Aさんを交際相手に対する暴行罪で現行犯逮捕したのです。
口論の際に、交際相手の腕を掴んだ事実はありますが、交際相手は被害を訴えておらず、Aさんの刑事処罰も望んでいません。
こうして警察署に連行されたAさんは、暴行罪で取調べの最中に強制採尿されてしまい、簡易検査で陽性反応が出たので、その後すぐに暴行罪で逮捕された件で釈放され、覚せい剤の使用容疑で緊急逮捕されたのです。
(実際に起こった事件を参考にしたフィクションです)
◇別件逮捕◇
警察等の捜査当局が目的としている事件(「本件」という)を立件するために、逮捕の要件を満たす、別の軽微な事件で被疑者を逮捕する捜査手法の一つです。
別件逮捕については、様々な見解がなされており、これまで適法と認められた別件逮捕もあれば、別件逮捕が違法として、本件の刑事裁判で無罪判決が確定した事件もあります。
◇別件逮捕の問題点◇
~拘束時間が長くなる~
逮捕は、強制的に人を拘束できる刑事手続きですので、その判断は、厳格に行わなければいけません。
捜査機関は、勾留が認められた場合、一度の逮捕で、最長22日間まで被疑者を身体拘束することができます。
もし別件で逮捕された場合は、別件で逮捕、勾留された後に、本件で再逮捕されることとなるので、実質、最長で44日間もの長期間にわたって身体拘束を受けることになりかねません。
捜査当局は、本件の立件を目的にしているので、当然、別件の逮捕・勾留期間中においても本件に関する取調べが行われることがほとんどです。
~別件逮捕中の本件の証拠収集~
別件逮捕中に、本件に関する証拠収集がなされて、その証拠を基に逮捕される可能性があります。
そのような証拠の全てが証拠として認定されるわけではありませんが、そのような証拠が有罪の決め手となる場合もあるので注意しなければなりません。
◇今回の事件を検討◇
別件逮捕の全てが違法とされているわけではなく、別件逮捕が違法と判断される事件もあります。
特に覚せい剤の使用事件では別件逮捕が問題となるケースが多いようです。
覚せい剤の使用事件の捜査は、被疑者(容疑者)の尿を鑑定するための採尿から始まります。
被疑者(容疑者)が警察官の任意採尿に応じて尿を提出すれば問題なく手続きが進むでしょうが、被疑者(容疑者)がなかなか警察署等への同行に応じなかったり、尿の提出を拒まれたりすると、採尿のために、裁判官の許可状を得て強制採尿しなければなりません。
裁判官の許可状を得るまでの数時間の間、被疑者(容疑者)を身体拘束する法的な根拠がないために、被疑者(容疑者)を実質的に拘束する手段として別件逮捕されることがあります。
ただ、こういった逮捕はさすがに許されないということになる可能性が高いでしょうから、覚せい剤の自己使用案件のために強引に理由をつけて逮捕していることがここまで明らかだと、違法な別件逮捕となってしまうわけです。