【弁護士が解説】就労資格がない外国籍の従業員を雇用した場合に問題となる不法就労助長によって生じる刑事裁判リスク

【弁護士が解説】就労資格がない外国籍の従業員を雇用した場合に問題となる不法就労助長によって生じる刑事裁判リスク

メリット②

コロナの影響がひと段落し,日本の入国制限も緩和され,これまでの人の往来が戻りつつあります。外国人の出入国が再開したことで,入管当局や警察も,不法入国,不法就労に対する取り締まりを再び強めています。近時,不法就労助長罪によって検挙される企業,事業主が増加しつつあります。不法就労助長罪は,外国人労働者を雇用する企業や事業主にとっては頭が痛い問題で,どれだけ注意をしていても防げないという場面もあります。一方,分かってやっていた場合には重大な刑事事件のリスクが生じてしまいます。

この記事では,不法就労助長罪の成立要素,企業が直面するリスク,および法的対策について,具体的な裁判例を交えながら解説します。

【不法就労助長罪とはなにか】

不法就労助長罪は,外国人が日本で働く際に必要な資格や許可なしに労働させる行為を助長した場合に問われる犯罪です。
不法就労助長罪は「出入国管理法第73条の2」に定められており,事業活動の中で外国人に不法就労をさせた場合,3年以下の懲役または300万円以下の罰金に処されることが定められています。
この法律のポイントは,外国人労働者を雇用する事業主が,労働者の在留資格や就労資格を確認せずに雇用することによって,不法就労を助長する行為を禁止していることにあります。事業主が外国人労働者が不法就労しているということを知らなくても,適切な確認を怠った結果として不法就労が行われた場合にも,不法就労助長罪が成立する可能性があります。本来,犯罪は「ダメだと分かって敢えてやった」という場合でなければ成立しないものです(故意責任の原則)。ですが,不法就労助長罪については過失犯,つまり「尽くすべき注意を果たさなかった」場合にも犯罪が成立するのです。
したがって,外国人を雇用する際には,その人の在留資格や就労が可能な資格を十分に確認し,不法就労を未然に防ぐことが事業主には求められています。

【事例:スナック経営者のケース】

不法就労助長罪の具体的な事例として,スナックを経営していた日本人が外国人に売春をさせていた事件があります(東京高等裁判所平成6年11月14日判決)。
被告人は,外国人従業員が勝手に売春をしていたと主張しましたが,東京高等裁判所はこの主張を認めませんでした。裁判所は,スナックで働く外国人が売春の対価の一部をスナックに支払い,店の了解が必要であることなどから,事業に関して外国人を雇っていると判断しました。このケースは,事業活動として外国人に不法就労活動をさせた場合に不法就労助長罪が成立すること,および事業主の責任範囲を示す重要な事例です。
判決の全文を裁判所HPからも確認することができます。

【成立要素の解説】

不法就労助長罪の成立要素は主に二つに分けられます。「事業に関しているか」「不法就労をさせたか」です。これらの要素を具体的な裁判例をもとに解説します。

事業に「関して」いるか

この要素は,外国人が行った労働が事業主が運営する事業の一環として行われたかどうかを問います。つまり,事業の運営に必要な活動であるかが重要です。
例えば,スナック経営者のケースでは,外国人従業員が客との間で売春の合意を行い,その対価の一部をスナックに支払っていた事実が,事業に関していると判断されました。このように,名目上は「飲食店」の従業員として雇っており売春婦として雇っているわけではない,とされていても,その業務が違法なものか適法なものかどうかという点とは関係なく,実質的な面を見て判断されているのです。不法就労を助長する活動が事業の一部となっている場合,この要素が成立します。

不法就労を「させた」か

不法就労を「させた」という要素は,事業主が外国人労働者を監督下に置いて働かせたことを指します。外国人が勝手に事業所で働いていたという場合には,不法就労助長罪には該当しないことになります。
重要なのは,事業主と外国人労働者との間に何らかの指示や監督の関係が存在し,その結果として不法就労が行われたかどうかです。雇用契約が結ばれていたというような場合は分かりやすいのですが,具体的な契約はなくとも,業務についての指示・命令があるかどうかが重要です。
上記のスナック経営者のケースでは,売春行為について事業主が一定の管理や制約を設けていたことから,不法就労を「させた」と判断されました。
これらの要素から,不法就労助長罪が成立するためには,単に不法就労を行ったのではなく,その活動が事業主の事業に関連し,事業主による一定の監督や指示の下で行われたことが必要であることがわかります。事業主は,外国人労働者の雇用に際して,これらの点に十分注意する必要があります。

【企業が直面するリスク】

不法就労助長罪に関わることは,次のようなリスクをはらんでいます。

刑事裁判,手続リスク

最も分かりやすいのは,刑事手続,刑事裁判に掛けられるというリスクです。
不法就労助長罪が成立した場合,事業主には3年以下の懲役または300万円以下の罰金に処される可能性があります。また,複数人の外国人に不法就労をさせていたという場合や,事業規模が大きかった場合には逮捕・勾留といった身体拘束のリスクもあります。
不法就労助長罪は出入国管理及び難民認定法という特別法に違反する犯罪ですが,刑事事件を扱う弁護士の中でも入管法まで扱う弁護士は多くありません。
警視庁の不法就労助長罪について,刑事事件に強いあいち刑事事件総合法律事務所の弁護士にご相談ください。東京支部(新宿駅最寄り)でのご相談は0120−631−881にて受け付けています。

社会的リスク

法的責任に加えて,社会的な評価の低下も大きなリスクです。レピュテーションリスク,いわゆる「評判」です。
不法就労助長の事実が公になった場合,企業の評判は著しく損なわれます。特にSNSの普及により,負の情報は瞬時に広がり,企業イメージの回復は困難を極めます。「外国人を不当に働かせている企業」というレッテルは,顧客離れや企業価値の毀損を引き起こし,結果として事業の持続可能性に影響を及ぼす可能性があります。

これらのリスクを避けるためには,企業は不法就労に関する法律を正確に理解し,適切な対策を講じる必要があります。具体的には,外国人労働者の在留資格や就労資格を確認し,適法な雇用管理を行うことが求められます。また,不明点がある場合には,専門家に相談することも重要です。企業がこれらの対策を適切に実施することで,法的リスクだけでなく,社会的リスクや経営上のリスクからも自身を守ることができます。
当事務所では,どの弁護士も刑事事件に強みを持ち,また,関連分野について専門性を持った弁護士が在籍しています。入管問題,企業犯罪・不祥事対応といった専門性の高い各部門の弁護士が,外国人を雇用する企業の経営をサポートします。
お困りのことがある方は,あいち刑事事件総合法律事務所の弁護士にご相談ください。東京支部(新宿駅最寄り)でのご相談は0120−631−881にて受け付けています。

【対策と実務上の注意点】

不法就労助長罪を防ぐためには,企業が実務上いくつかの重要な対策と注意点を理解しなければなりません。

在留資格と就労資格の確認

外国人労働者を雇用する際には,その人の在留資格と就労資格を確認することが最も基本的な対策です。在留カードの確認を怠ると,不法就労を助長するリスクが高まります。この確認作業は,雇用の初期段階だけでなく,定期的に行うことが重要です。
具体的には従業員名簿を作成し,各自の在留資格/在留の期限/就労可能な時間数や範囲を確認し,認められた就労の範囲を逸脱しないように監督します。

従業員教育と意識の向上

企業内での従業員教育を通じて,不法就労のリスクや法的責任についての意識を高めることも重要です。特に,外国人労働者を直接管理する立場の人には,在留資格や就労資格に関する知識をしっかりと理解してもらう必要があります。

専門家との連携

不法就労に関する法律は複雑であり,常に最新の情報を把握しておく必要があります。
不明点がある場合や,具体的な対策について相談したい場合には,法律の専門家や行政書士と連携することが望ましいです。専門家の助言を得ることで,リスクをより効果的に管理することが可能になります。
これらの対策と注意点を適切に実施することで,企業は不法就労助長罪のリスクを大幅に低減させることができます。また,これらの取り組みは,企業のコンプライアンス意識を高める意味でも重要です。

【特別な対応が必要なケース】

不法就労助長罪に関連して,ビザの種類によっては個別に対応した方が良い場面があります。

永住者や日本人の配偶者等

永住者や日本人の配偶者等の在留資格を持つ外国人は,就労に関して制限が緩和されています。それに加えて,永住者の場合には在留期間に制限がありません。
そのため,「永住者」,「日本人の配偶者等」の在留資格の方については,在留カードが有効かどうかといった本人確認を重視します。

資格外活動許可を受けた留学生

留学生は,資格外活動許可を受けることによって,「1週間で28時間以内」のアルバイト等の就労が可能になります。しかし,許可された時間や活動範囲を超えて就労させることは違法となります。企業は,留学生が資格外活動許可を持っているか,許可された範囲内で就労しているかを確認し,シフトを組むうえでも「28時間以上の稼働になっていないか」を注意する必要があります。

中途採用の場合

中途採用において,既に日本に在留している外国人を雇用する場合,その人の在留資格が新たな就労内容に適合しているかを確認する必要があります。永住者や配偶者等のビザでない限り,在留資格は,特定の就労内容に限定されていることが多く,職種変更などによっては在留資格の変更が必要になる場合があります。
これらの特別なケースに対応するためには,企業が外国人労働者の在留資格や就労資格に関する知識を持ち,適切な管理体制を構築することが重要です。また,不明点がある場合には,専門家に相談することで,リスクを避けることができます。

【まとめと企業が取るべき行動】

不法就労助長罪のリスクを避け,企業としての社会的責任を果たすためには,外国人労働者の雇用に関する法律を遵守することが不可欠です。
本記事で紹介した対策と注意点を実践することで,多くのリスクを回避することが可能です。しかし,法律は複雑であり,企業の具体的な状況に応じた適切な対応が必要な場合も少なくありません。
不明点がある場合や,企業が直面している特定の問題に対して専門的なアドバイスが必要な場合には,弁護士への相談がをおすすめします。
企業の責任者の方々は,不安や疑問がある場合には,遠慮なく弁護士に相談することをお勧めします。適切な法的アドバイスを受けることで,企業は安心して外国人労働者の雇用を行うことができるでしょう。

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