服の上からの撮影行為に盗撮罪は成立する?逆転有罪判決も

服の上からの撮影行為に盗撮罪は成立する?逆転有罪判決も

スカートの中や着替え、トイレなどではなく「服の上から撮影」する方法での盗撮事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部・八王子支部が解説致します。

事例

東京都中央区在住のTさんは都内の専門学校に通う20歳の男性です。
ある日,TさんはO線の電車に乗って通学していたとき,たまたま好みの顔の女性を見かけて,声を掛けようと思ったものの勇気が出なかったため,姿だけでも写真に撮りたいと思い,女性の全身が写るようにスマートフォンのカメラで撮影しました。するとその様子に気付いた他の乗客に「盗撮していただろ」と問い詰められ,最寄りの駅で電車を下ろされて,駅事務室に連れていかれてしまいました。
Tさんは、通報を受けて臨場した中央区を管轄する月島警察署の警察官により取調べを受けました。

【服の上からでも盗撮罪になるのか?】

盗撮に関する犯罪は,各都道府県で制定されている「迷惑行為防止条例」に規定があります。都道府県によっては「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」というように,長い名前が付いていることもあります。
東京都の例で言うと,盗撮に関する条例の規定は次のようになっています。

第5条 何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であつて、次に掲げるものをしてはならない。
・・・(中略)
(2) 次のいずれかに掲げる場所又は乗物における人の通常衣服で隠されている下着又は身体 を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること。
イ 住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいる ような場所
ロ 公共の場所、公共の乗物、学校、事務所、タクシーその他不特定又は多数の者が利用 し、又は出入りする場所又は乗物(イに該当するものを除く。)
(3) 前2号に掲げるもののほか、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、卑わいな言動をすること。

条例が明文で禁止しているのは,
通常服で隠されている下着や身体

を撮影したり,撮影する目的でレンズを向けたりするという行為です。
そのため,「服の上から人の身体や顔を撮影する行為」は盗撮に当たらないため,条例には反していないようにも見えます。
しかしながら,最近,服の上から身体を撮影した行為に対しても条例違反を認める裁判例が出されました。
しかも,この裁判は「逆転有罪判決」,つまり,一審では無罪,条例違反は成立しないと判断したのを覆して,条例違反が成立する,つまり「卑わいな言動」に該当すると判断し直したというものです。
≪参考≫
着衣の上からでも盗撮、逆転有罪 東京高裁「下品でみだらな言動」 共同通信令和4年1月13日配信
小型カメラで女性の衣服の上から胸元などを隠し撮りしたとして、東京都迷惑防止条例違反の罪に問われた男(51)の控訴審判決で、東京高裁が無罪とした一審判決を破棄し、懲役8月(求刑懲役10月)の有罪判決を言い渡したことが13日、分かった。
これは,服の上から身体を撮影した行為が,「卑わいな言動」にあたると判断したというものです。
実際,過去にも服の上から身体を撮影した行為に対して盗撮の成立を認めた裁判例もありました。

【過去の裁判例】

平成19年9月25日に札幌高等裁判所で言い渡された判決です。
この事件でも,一審では,服の上から身体を撮影した行為に対して盗撮は成立しないと判断していましたが,高等裁判所がその判断を覆し,盗撮が成立するとして逆転有罪判決を言い渡したものです。その後弁護側も上告していますが,上告は棄却されたため高等裁判所判決が確定しています。
この事例では,ショッピングセンター内で被害者の後ろを,距離にして約40メートル,時間にして約5分間の間,付け狙い,お尻や腰のあたりの身体のラインがくっきり見える部分を11回撮影したというものでした。
札幌高等裁判所は,このような行為が,被害者に対して「そんなことをされたら恥ずかしいし気味が悪い」という気持ちを生じさせるものであるため「卑わいな言動」に該当すると判断し,有罪の判決を言い渡しました。
重要になるポイントは,服の上から身体を撮影したという場合であったとしても,①体のどのあたりを撮影したのか,②どのような体勢で撮影行為をしたのか,と言った点から,その撮影行為を傍から見た時に被害者が羞恥心や不安な感情を感じるかどうかです。

【Tさんの事例ではどうなのか?】

Tさんの事例だと,電車内でこっそりと相手に知られないように全身を撮影したという行為です。これだけでは判断できませんが,全身を写したというだけでは「卑わいな言動」には当たらない可能性があります。しかし,Tさんと女性との位置関係や,カメラの向け方,実際に撮った画角等によっては,相手の女性に不安を感じさせるような言動であるとして,「卑わいな言動」と判断されて逮捕されたり,起訴されたりしてしまう可能性があります。
服の上からの撮影行為であっても,迷惑行為防止条例違反として警察に被害届が出されたり,取調べを受けたりといったトラブルに派生する可能性が十分にあります。
特に,最新の高等裁判所の判断としては「有罪」と判断された事例もあります。
東京都中央区にて、盗撮などの迷惑行為防止条例に関して不安なことがある方は,刑事事件に特化した弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部・八王子支部にご相談ください。

keyboard_arrow_up

0120631881 問い合わせバナー LINE予約はこちら