銀行口座の不正開設について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部が解説します。
◇事件◇
東京都武蔵野市に住むAさんは,お金に困っていたことから,いわゆる闇金にお金を借りることにしました。
闇金に借りた金額は,30万円とそれほど大きい金額ではなかったのですが,利子が非常に高かったこともあり,最終的には支払いが滞るようになりました。
そのような状況で,Aさんは,闇金の担当者から「今の状況では,いつまでたっても返済できないだろう。銀行で口座を開設してきて,それを郵送してくれたら借金をチャラにしてやる」と言われました。
この話に乗るしかないと考えたAさんは,最寄りのB銀行に行き,A名義で口座を開設し,通帳とキャッシュカードの交付を受けました。
そして,通帳とキャッシュカードを指定された住所に送ると,それから借金の返済の催促がなくなりました。
しばらくすると,警視庁武蔵野警察署からAさんのところに連絡があり,「あなたの口座の件で話が聞きたいから一度警察に来てくれ」と言われてしまいました。
(フィクションです)
◇Aさんに成立する犯罪◇
Aさんは,最初から自分で口座を使用するつもりがなく,第三者に譲渡するつもりであったにもかかわらず,そのようなことを言わずに銀行口座を開設しています。
キャッシュカードや,通帳の説明文をよく読むと記載がある場合もあるのですが,銀行などでは,銀行の許可がない口座の譲渡等を禁止しています。
そのため,もしAさんが本当のことを銀行の窓口職員に話していれば,銀行の職員は口座開設の手続きを進めなかったということができます。
このような場合には,人をだまして通帳やキャッシュカードを取得したと言えますから,刑法にある詐欺罪が成立することになります。
今回のような事例と異なり,もともとは自分で使用するつもりで口座を開設し,その後Aさんと同じように口座の郵送を求められ,それに応じて郵送したような場合には,犯罪による収益の移転防止に関する法律(通称犯収法)違反の罪が成立する可能性が高くなります。
◇口座譲渡の取調べ対応◇
先ほど述べた通り,最初に口座を開設した時点でどのような意図があったかによって成立する罪名が異なる可能性があります。また,詐欺罪には罰金刑が無いのに対し,犯収法には罰金刑の定めがあります。
罰金刑がある場合には,略式手続が選択される可能性があります。略式手続とは,罰金刑の前科が必ず付きますが,一般的に想像されるような裁判ではなく,書類のみが裁判官の所へ運ばれ,裁判所から略式命令という書類が郵送され,後日検察庁に罰金を納付しに行くというような,簡単な手続のことをいいます。
口座譲渡は,ほとんどの場合犯罪になることが否定できません。ただし,どのような罪名で処理されるかは,最終的な処分に大きな影響を与える可能性があります。そして,先ほど述べた通り,罪名選択のポイントは,口座開設の際の意図ですから,警察や検察といった捜査機関に対して,開設当時の認識等をしっかりと主張していくことが必要になります。
◇口座譲渡の弁護活動◇
口座譲渡をしてしまう方の中には,Aさんと同じように闇金などに手を出して,自らも違法な金利等によって苦しんでおられる方もおられます。
検察官が起訴するかどうかを判断する際には,犯罪の動機など,一切の事情を考慮した上で決定されます。
そのため,検察官に対し,今回の事件の動機や,原因,自らの責任の程度など,最終的に処分を決めるにあたって,自分に有利な事情をしっかりと主張できれば,事案の性質によっては,起訴猶予になる可能性も十分感がられます。