覚せい剤使用事件で逆転無罪

覚せい剤事件の逆転無罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部が解説します。

◇事件◇

先日、東京高等裁判所において、第一審で懲役2年6月の実刑判決を受けた、覚せい剤取締法(覚せい剤使用)違反に問われた男性に対して、逆転無罪判決が言い渡されました。報道によりますと、採尿前の職務質問の現場において、警察官が男性の下半身を露出させており、この行為に対して裁判官は「手続きに違法があった。」と認定したようです。そして覚せい剤反応が陽性であるとした鑑定書が、この違法手続きと密接な方法で得られたとされて、証拠から排除されたことによって無罪判決が言い渡されたようです。
(令和元年7月17日配信の時事ドットコムニュースを参考)

今回の裁判のように、覚せい剤の所持や使用事件では、尿や、覚せい剤の鑑定書の証拠能力が否定されて無罪判決が言い渡されることは珍しいことではありません。
今回のコラムでは、東京の薬物事件に強い弁護士が、この刑事裁判を検証します。

◇覚せい剤取締法違反◇

覚せい剤取締法では、覚せい剤の使用、所持、譲り受け、譲り渡し、輸出入等が禁止されています。
今回の裁判で無罪を得た男性は、覚せい剤の使用で起訴されています。
覚せい剤の使用については、起訴されて有罪が確定すれば10年以下の懲役が科せられることになりますが、初犯の場合は、よほどの事情がない限り、非常に高い確率で執行猶予付きの判決が言い渡され、実刑判決になることはほとんどありません。
東京地裁での第一審で、男性に対して懲役2年6月の実刑判決が言い渡されていることを考えると、再犯であることは間違いないでしょう。

◇覚せい剤使用事件で逮捕されるまで◇

覚せい剤使用事件で逮捕されるまでについて解説します。
現在、日本の捜査機関は覚せい剤の使用を尿の鑑定によって立証する方法を採用しています。(毛髪による鑑定が行われることもあるが非常に稀で、実際はほとんど行われていない。)
警察官による職務質問や、捜査機関による内偵捜査によって覚せい剤を使用している疑いがある人に対して警察官は採尿を求めることができます。
最初は任意の採尿を求められますが、この任意採尿を拒否すれば、裁判官が発付する「捜索差押許可状」を基に強制採尿されることとなります。
こうして採尿された尿は、覚せい剤成分が含まれているかどうかを鑑定されることになります。
緊急性がある場合には、警察署に設置されている専用の機械や、簡易の検査キットを使用して警察官によって簡易鑑定が行われ、その鑑定で陽性反応が出ると、その時点で逮捕されます。
緊急性がない場合や、採尿した尿の量が少なければ簡易鑑定は行われずに、科学捜査研究所における尿鑑定を受けることになります。
科学捜査研究所における尿鑑定は、科学捜査研究所の鑑定員によって行われるため、検査結果が出るまでに時間を要します。そのため、採尿した後はいったん解放されて帰宅することができます。
科学捜査研究所における尿鑑定で覚せい剤の陽性反応が出ると、鑑定員によって「鑑定書」が作成されます。
警察官による簡易鑑定によって逮捕された場合であっても、その後、残りの尿が科学捜査研究所の鑑定員によって鑑定されて、最終的には「鑑定書」が作成されます。
そして、覚せい剤使用事件の刑事裁判では、科学捜査研究所の鑑定員の作成する「鑑定書」が、被告人の有罪を決定づける重要な証拠となります。

◇鑑定書の証拠能力◇

覚せい剤使用事件の刑事裁判では、覚せい剤を使用したか否かの判断は、尿の鑑定結果が記載された「鑑定書」によって証明されます。
鑑定書に証拠能力が認められるのは、作成までの刑事手続きが適法に行われていたことが前提ですので、それまでの刑事手続きが違法であった場合には、今回の刑事裁判のように、鑑定書の証拠能力が認められない可能性があります。
今回の刑事裁判では、男性を職務質問した警察官が、男性に対して下着を脱がせて身体検査を行ったり、下半身に触れたことを認定し、それについて裁判官は「プライバシーを尊重せず、手続きには違法がある」と批判したようです。さらに、その違法手続き後に行われた採尿によって収集された尿の鑑定書を、証拠から排除したのです。
覚せい剤の使用を証明するはずの鑑定書が、裁判の証拠から排除されたことによって、男性が覚せい剤を使用していたことを証明する証拠がなくなったので、男性の無罪が言い渡されたと言えます。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、これまで数多くの薬物事件の刑事弁護活動を行ってきた実績がございます。
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