覚せい剤所持事件の控訴について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部が解説します。
◇事例◇
覚せい剤取締法違反で執行猶予中のAさんは、約2ヶ月前に、東京都江戸川区を自動車で走行中に、交通違反をしてしまいパトロール中の警察官に停止を求められました。
この時Aさんは、数日前に友人から購入した覚せい剤を隠し持っており、それが発覚する事をおそれて逃走しましたが、結局、追跡してきたパトカーに捕まってしまい、その後の所持品検査で覚せい剤も見つかってしまいました。
覚せい剤の所持罪で現行犯逮捕されたAさんは、10日間の勾留期間を経て起訴されて、先日、懲役2年の実刑判決が言い渡されました。
Aさんは、この判決に納得できず控訴を検討しています。
(フィクションです。)
◇控訴◇
控訴とは、地方裁判所や簡易裁判所といった第一審裁判所が下した判決に不服がある場合に、第一審裁判所の上級裁判所(簡易裁判所が第一審の場合は地方裁判所、地方裁判所が第一審の場合は高等裁判所)に不服申し立てを行うことです。
控訴は、法律で定められた控訴理由がある場合に限って行うことができます。
その控訴理由とは、主に事実誤認、量刑不当、法令適用の誤り、訴訟手続の法令違反などです。
◇控訴手続きの流れ◇
第 一 審 判 決
↓≪※14日以内≫
公 訴 申 立
↓ ↓
勾 留 ⇒ 保 釈 請 求 ⇒ 在 宅
↓ ↓
控 訴 記 録 送 付
↓
控 訴 趣 意 書 の 提 出
↓
控訴裁判所の控訴記録の検討
↓
公 判
↓
判 決
※第一審判決から控訴申立までの期間は14日以内ですが、判決日は算入しません。また控訴期間の末日が日曜日、土曜日、祝日、1月2日、1月3日、12月29日から12月31日までの日である場合は、それらの日の次の日が控訴期間の最終日となります。
~控訴審の判決~
控訴審は、途中で控訴を取り下げない限り、判決により終了します。
控訴審の終局判決には「控訴棄却判決」と「原判決破棄判決」の2種類です。
「控訴棄却判決」とは、控訴裁判所が第一審判決の判断を妥当として維持する判決のことです。
「原判決破棄判決」とは、控訴裁判所が第一審判決の判断に誤りがあったことを認め、第一審判決を破棄する判決です。
原判決破棄判決はさらに、控訴裁判所が自ら新たな判断を下す破棄自判と、改めて第一審裁判所で審理し直す破棄差戻しの2種類に分かれます。
~控訴は検察官もできる~
告訴できるのは被告人だけではありません、検察官も第一審の判決に不服があれば控訴することができます。
被告人だけしか控訴しなかった場合は、第一審で言い渡された刑よりも重い刑になることはありません。
これは、被告人が、第一審よりも不利益な結果になることをおそれて、控訴権の行使を差し控えることのないようにとの配慮から定められた「不利益変更禁止の原則」といいます。
しかし上記したように検察官側も控訴した場合はこの限りではありません。
◇控訴審までの弁護活動◇
~保釈請求~
上記した「控訴手続きの流れ」のように、第一審判決後に収監された場合でも、控訴を申立ててから控訴審で判決が言い渡されるまでの間、改めて保釈請求することができます。
控訴審での保釈を請求を請求した場合、保釈金は、第一審の際の保釈金よりも高くなることがほとんどです。
~事件を再検証~
控訴審は、第一審判決に誤りがなかったかについて、第一審判決時の事情を基礎として審理するものです。
したがって、原則としては、第一審裁判所において取調べられた証拠を前提としなければなりません。
もっとも、事実誤認や量刑不当を理由に控訴する場合は、やむを得ない事由によって第一審の弁論終結前に請求できなかった証拠については、証拠調べができます。
また、第一審で調べられた証拠であっても、第一審判決の当否を判断するために必要であれば、裁判所の裁量により証拠調べをすることもあります。
さらに、量刑に影響を及ぼし得る情状に関する証拠は、第一審判決後に生じた事情に関する証拠であっても裁判所の裁量により調べることが可能ですので、弁護士は改めて事件を検証し、証拠収集することとなります。
~控訴趣意書の作成~
控訴審は、第一審の事後審です。基本的には、第一審の裁判を後から検討して、第一審裁判所の判断に問題があるか否かという判断をします。
控訴趣意書を作成するにあたっては、第一審判決とその判決の基となった事件記録を読み込み、不服がある第一審判決の論理の弱点を見つけ出した上で、説得的な論述をしなければなりません。