警察に逮捕された場合の対処について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部が解説します。
◇事件◇
10日ほど前に、Aさんは、東京都荒川区の居酒屋で友人とお酒を呑んで帰宅途中に、路上ですれ違った男性と些細なことから口論となりました。
Aさんは男性から胸倉を掴まれたので、その腕を振り払おうとして男性の身体を両手で押して、男性を転倒させました。
その際、男性はコンクリートの地面で後頭部を強打したようです。
Aさんは、倒れた男性を残してその場を立ち去り帰宅しましたが、翌日のニュースで男性が意識不明の重体に陥っていることを知りました。
Aさんは、刑事事件に強いと評判の弁護士に相談し、その弁護士と共に警視庁荒川警察署に出頭したところ、傷害罪で逮捕されてしまいました。(フィクションです)
◇傷害罪◇
他人に暴行を加え傷害を負わせてしまうと傷害罪が成立します。
今回の事件でAさんは、相手の男性に傷害を負わせる気はありませんでしたが、暴行の結果、男性は意識不明の重体に陥っています。
このような場合でも、暴行の故意があれば傷害罪が成立してしまうのです。
傷害罪は暴行罪の結果的加重犯とされ、さらに、意識不明の男性が死亡した場合は、傷害致死罪が適用されます。
当然、傷害罪が成立するには、暴行によって傷害を負ったという因果関係が必要となり、暴行と傷害に因果関係がない場合は、暴行罪が成立するにとどまります。
ちなみに、暴行罪の法定刑は「2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」ですが、傷害罪の法定刑は「15年以下の懲役又は50万円以下の罰金」と厳しく、傷害罪致死罪は「3年以上の有期懲役」と更に厳罰化されています。
◇自首◇
Aさんは、ニュースを見て被害者が意識不明に陥って、事件を警察が捜査していることを知りました。
そして自ら警察署に出頭しています。
この出頭が自首に当たるのかについて検討します。
自首とは
①犯罪行為(事件)自体を警察等その捜査機関が把握していない場合
②警察等の捜査機関が犯罪行為(事件)を把握しているが、犯人が判明していない場合
の何れかに、捜査機関に犯人自らが出頭することです。
Aさんの出頭が自首にあたるとすれば②のケースになるでしょう。
Aさんが警察署に出頭するまでに犯人がAさんであることが判明していた場合は、Aさんの出頭は自首に当たりませんが、もし、捜査機関においてAさんが犯人だと判明していなければ、Aさんの出頭は自首となるでしょう。
刑法第42条の自首について明記した条文には「~自首したときは、その刑を減軽することができる」と自首が、刑の任意的な軽減事由に当たることが定められています。
◇正当防衛◇
今回の事件でAさんは、男性から先に胸倉を掴まれており、その手を振り払うために男性の身体を押しています。
暴行の故意は認められるでしょうが、積極的な加害意思があったのかと言われれば疑問が残りますし、むしろ正当防衛が成立するのではないでしょうか。
正当防衛とは、急迫不正の侵害に対し、自己又は他人の権利を守るために、やむを得ず行った防衛行為のことです。
Aさんが先に胸倉を掴まれたことについては、正当防衛でいうところの「急迫不正の侵害」といえるでしょうが、その後、Aさんが男性の身体を押す行為が「自己又は他人の権利を守るために、やむを得ず行った防衛行為」といえるかどうかによって、Aさんの行為が正当防衛と認められるかどうかが判断されるでしょう。
ちなみに、正当防衛の防衛行為は「必要最小限」であることが必要とされていますが、防衛行為によって生じた結果が必要最小限であることまでは要求されていません。
◇量刑◇
傷害罪の量刑は、被害者が負った傷害の程度、被害者との示談、前科・前歴の有無等によって左右されます。
初犯で、被害者が軽傷である場合は、被害者と示談していれば不起訴となる可能性が非常に高いですが、逆に、今回の事件のように被害者が意識不明に陥る重傷を負ってしまった場合は、初犯であっても実刑判決が言い渡される可能性があります。
ただ、今回の事件でAさんは、自首や、正当防衛が認められる可能性があり、その場合は不起訴の可能性もあるでしょう。