薬物事件の控訴について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部が解説します。
◇覚せい剤の使用事件◇
Aさんは、インターネットで購入した覚せい剤を、自宅で使用しました。
覚せい剤を使用した3日後に、車を運転している時に急な眠気に襲われたAさんは、居眠り運転をしてしまい、東京都港区の一般道で中央分離帯に衝突する単独事故を起こしてしまいました。
事故の衝撃で意識を失ったAさんは、病院に救急搬送され、病院での治療で覚せい剤の使用が発覚してしまいました。
Aさんは退院と同時に、警視庁三田警察署に覚せい剤の使用事件で逮捕され、10日間の勾留を経て、覚せい剤を使用した罪で起訴されました。
そして先日の刑事裁判で懲役1年6月の判決が言い渡されました。
4年前に覚せい剤取締法違反(使用の罪)で懲役1年6月執行猶予3年の判決を受けているAさんは、今回の事件では実刑判決を覚悟していましたが、刑務所に服役するのに納得ができず、控訴を検討しています。
(フィクションです)
◇控訴・上告◇
日本の刑事裁判は、簡易裁判所、地方裁判所での第一審、高等裁判所での第二審、最高裁判所での第三審の、三審制がとられています。
簡易裁判所や地方裁判所で言い渡される判決内容に納得ができなければ、高等裁判所に控訴することができ、さらに高等裁判所の判決に納得できなければ最高裁判所に上告することができるのです。
有罪が言い渡された刑事裁判で無罪を主張する場合(事実誤認)はもちろんのこと、有罪であることは納得できるが、その刑事処分に納得できない場合(量刑不当)でも、控訴、上告をすることができます。
ちなみに、控訴、上告できるのは被告人に限られません。
被告人を起訴した検察側にもその権利はあり、被告人に無罪が言い渡された、被告人の刑事処分が軽すぎるといった場合には、検察側が控訴、上告することも珍しくなく、被告人と、検察側の双方が控訴、上告するというケースもよくあることです。
◇控訴期限◇
控訴、上告はいつでもできるわけではありません。
控訴、上告できる期間は法律で定められており、その期間は、判決の言い渡しから14日以内です。(期間の起算日は、判決言い渡し日の翌日)
たとえば、令和元年5月7日の刑事裁判で「懲役1年6月」の判決が言い渡された場合、控訴期間の起算日は5月8日となり、この日を含めた14日間が控訴期間ということになります。したがって、5月21日が控訴期限日となるのです。
そして、その翌日の5月22日が刑の確定日になります。
ちなみに控訴期限の最終日が、土日祝日又は年末年始(12月29日~1月3日)であ るときは,その翌日(その翌日が土日等であれば更にその翌日)が控訴期限の最終日となります。
◇刑の確定◇
刑の確定とは、判決の内容に対しこれ以上不服申し立てをすることができなくなった状態のことをいいます。
被告側、検察側が上訴することなく、上訴期間(14日間)が経過して判決が確定した場合を「自然確定」といいます。
ちなみに被告人、検察官は控訴や上告できる権利を放棄したり、すでにした控訴や上告を取り下げたりすることができます。
一方が控訴や上告できる権利を放棄したり、すでにした控訴や上告を取り下げれば、他方が控訴や上告できる権利を放棄したり、すでにした控訴や上告を取り下げた時点で判決が確定します。
◇刑の執行◇
刑が確定すると、刑の執行がはじまります。
死刑、懲役、禁錮、拘留の場合、身柄を拘束されている方は、そのまま収容施設で刑に服することになります。
他方、在宅で刑が確定した場合は、検察庁からの要請で出頭し、拘置所などに収容されてから刑の執行が開始されます。
ちなみに出頭要請に従わず出頭しなかった場合は、収容状という令状によって強制的に身柄を拘束されます。
執行猶予付き判決を受けた方は、確定日から刑の猶予期間がはじまります。