警察に盗撮データを押収された場合について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部が解説します。
~事件~
東京都北区に住む会社員のAさんは近所にある24時間営業のスポーツジムに週に2~3回通っています。
このスポーツジムには男女兼用の更衣室があり、数週間前からAさんはこの更衣室の天井に火災報知器型の小型カメラを設置し、盗撮をしています。
その手口は、夜にジムに行った際にカメラを設置し、その翌朝に再びジムに行ってカメラを回収するというもので、これまで、数人が更衣している状況を盗撮しており、盗撮した画像データは自宅のパソコンに保存していました。
そして先日もジムに行き、スポーツウエアに着替える際に更衣室を利用し、そこで火災報知器型の小型カメラを天井に設置しました。
そして約1時間、ジムで汗を流して帰宅したのですが、翌朝、カメラを回収しようとジムの更衣室に入るとカメラが無くなっていました。
Aさんは、盗撮用のカメラが発覚して警察に届け出られたと思い、数日後にジムを退会し、自宅のパソコンに保存していた盗撮データも消去しました。
しかし、その翌日に警視庁王子警察署がAさんの自宅に捜索に入り、自宅からパソコン等が押収されたのです。
今のところAさんは、警察に対して容疑を否認していますが、今後のことが不安です。
(フィクションです)
◇盗撮用カメラの設置◇
これまで何度もこちらのコラムで盗撮事件を特集してまいりましたので、盗撮行為が東京都の公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反に当たることは皆さんご存知かと思います。
東京都の公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例では、盗撮行為だけでなく、盗撮する目的でカメラを人に向けたり、設置することも禁止されているので、当然Aさんの行為は、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反となります。
この条例で盗撮が禁止されている場所は
①住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所
②公共の場所・公共の乗物、学校、事務所、タクシーその他不特定又は多数の者が利用又は出入する場所又は乗り物
です。
今回の事件でAさんが盗撮用のカメラを設置したスポーツジムの更衣室は上記①に該当します。
ちなみに、盗撮の目的でカメラを設置する行為自体が禁止されているので、実際に盗撮したかどうかは、この条例違反の成立に関係ありません。
~盗撮事件の刑事罰~
東京都の公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例では、盗撮の罰則を「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」と規定しています。
◇警察の捜査◇
Aさんの起こした盗撮事件において、警察はどのような捜査をするのでしょうか。
~盗撮用カメラに対する捜査~
どの様なかたちで盗撮用カメラが押収されたのは明らかになっていませんが、警察は押収した盗撮用カメラの保存データを精査するだけでなく、指紋採取といった鑑識活動を行います。
盗撮用カメラを設置するケースの盗撮事件では、設置時に犯人の顔が撮影されているケースも少なくないようです。
~犯行現場に対する捜査~
スポーツジムに設置されている監視(防犯)カメラの映像も捜査の対象となります。
最近は、日本中のいたる所に監視カメラや防犯カメラが設置されていますので、盗撮事件に限らず、あらゆる犯罪捜査において警察等の捜査当局は、この様なカメラで撮影された映像を捜査の対象としています。
警察は、このような捜査から、犯行時に、スポーツジムに出入りした会員を特定して容疑者を絞っていきます。
~関係先の捜索~
この様な捜査によって容疑者が割り出されると、その容疑者の犯行を特定するために、関係先の捜索が行われて、証拠品が押収されます。
容疑者の自宅に警察官が立ち入って捜索をする場合は、裁判官の発する捜索差押許可状が必要ですが、上記の捜査で容疑者として絞り込まれていれば、捜索差押許可状は容易に発付されるでしょう。
~容疑者の逮捕及び取調べ~
こうして犯人が特定されれば、警察等の捜査機関は犯人を逮捕したり、警察署に呼び出して取調べを行います。
Aさんの事件の場合、盗撮に使用されたカメラや、盗撮データを保存しているパソコンは押収されていますが、すでにパソコンのデータを消去して証拠隠滅を図っていることから、逮捕されるリスクは十分に考えられるでしょう。