窃盗被害の虚偽申告事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部が解説します。
◇事件内容◇
東京都文京区に住む会社役員Aさん(50歳)は、火災保険の「犯罪被害の保証特約」に加入しています。
この保険は、自宅敷地内で犯罪被害にあった場合、その被害品等を保証してもらえる内容になっています。
そしてAさんは、この特約を悪用することを企て、自宅の駐車場に駐車していたオートバイを盗まれたと、管轄の警視庁富坂警察署に窃盗被害を虚偽申告しました。
すると、警視庁富坂警察署の警察官が自宅にやってきて、鑑識活動を行い、Aさんから聴取を行って被害届を作成したのですが、Aさんの態度を不審に思った警察官から追及を受けたAさんは、虚偽の被害申告である旨を白状してしまったのです。
(フィクションです。)
◇業務妨害罪◇
刑法第233条~偽計業務妨害罪~
偽計を用いて人の業務を妨害すれば偽計業務妨害罪となり、偽計業務妨害罪で起訴されて有罪が確定すれば「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」が科せられます。
偽計とは、人を欺き、あるいは、人の錯誤、不知を利用したり、人を誘惑したりするほか、計略や策略を講じるなど、威力以外の不正な手段を用いる事とされています。
簡単な表現で「人を騙す」といった行為も偽計に当たります。
つまり今回の事件で、虚偽の窃盗被害を警察に届け出る行為は、警察官を騙しているので、偽計業務妨害罪の「偽計」に該当すると言えます。
続いて「業務」について考えてみます。
一般的に業務妨害罪の「業務」とは、職業その他社会生活上の地位に基づいて継続して行う事務又は事業を意味し、営利の目的や経済的なものである必要はなく、精神的、文化的なものでもよいとされています。
ただ今回の事件の様な警察官の職務が、業務妨害罪の「業務」に当たるか否かについては諸説あります。
これは、警察官の職務は「公務」と位置付けられ、公務は公務執行妨害罪によって保護されている事から、偽計業務妨害罪により保護される「業務」との関係が問題になるからです。
かつて「公務」は、一切業務妨害罪の対象にならないという説が有力でしたが、警察官の職務を業務妨害罪の対象にしている判例も存在するので、現段階では、警察官の職務、公務が業務妨害罪の「業務」に当たるか否かは、明確に定められていないと言えます。
ただ昨年、警察官の前に覚せい剤に似せた白い粉をわざと落とした男の行為に対して、偽計業務妨害罪が適用されました。この事件の裁判で、弁護人は「警察官の業務は強制力のある権力的公務であり、偽計業務妨害罪の対象外である」として無罪を主張していましたが、裁判官は「公務であっても偽計業務妨害罪の対象と解釈すべきだ」と指摘して有罪判決を言い渡しています。(平成30年10月31日付の福井新聞記事を参考)
◇軽犯罪法違反◇
軽犯罪法第一条第16項で、虚構の犯罪又は災害の事実を公務員に申し出ることを禁止しています。
実際に発生していない窃盗事件の被害を警察官に申告する行為は、まさにこれに当たります。
軽犯罪法違反の法定刑は「拘留又は科料」と非常に軽いもので、情状によっては刑が免除されることもありますが、逆に勾留と科料が併科される場合もあります。