【事例解説】個人情報をリスト化した行為、何が問題になった?(前編)

【事例解説】個人情報をリスト化した行為、何が問題になった?(前編)

個人情報 リスト化

2024年10月10日、郵便局で顧客情報が流用されたという問題に関して、日本郵政グループが再発防止策を発表したという報道がありました。(参考:NHK『郵便局でゆうちょ銀顧客情報流用 システム改修など再発防止策』)

この問題は、ゆうちょ銀行の情報が、同じグループ内のかんぽ生命という生命保険会社の営業のために利用されたというものでした。
報道においては法令の違反があった」とされていますが、具体的にはどのような問題があり得たのでしょうか。

今回は、個人情報をリスト化した行為の問題点について、刑事事件に強い弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部が解説します。
本記事を前編、次回記事に後編として解説しますので、ぜひ参考にしてください。

【「情報の流出」は刑事事件となりうるのか】

個人、会社(企業)を問わず、情報の流出漏洩について刑事事件となりうる場合があります

情報の流出・漏洩が刑事事件となるパターンとしては大きく分けると2パターンです。
1つ目は会社の情報統制、内部規制としての問題、2つ目は顧客の情報管理としての問題です。

それぞれどういうことなのか、具体的に解説していきましょう。

【会社内部の問題としての「情報漏洩」に対する刑事罰等】

まずは、1つ目の会社の情報統制、内部規制としての問題について検討をしていきます。
これは平たく言うと、社外に情報を持ち出すことによって会社に損失を与えたかどうか、つまり、会社を被害者とした犯罪が成立するかどうか、という視点です。

この視点から見て、成立する可能性がある犯罪は2つあります。
会社法上の特別背任罪と、不正競争防止法における営業秘密の侵害です。

特別背任とは、以下の①だれが、②どんな目的で、③何をして、④どんな結果になった、という要件で構成されています。
会社の取締役や監査役のような一定の立場にある人
自分や第三者の利益のために又は会社の利益を害する目的
会社から与えられた任務に背いて
会社に損害を与えた
場合に、特別背任が成立します。

典型的な例が、会社の代表取締役等が自分の親族や知人に対して回収の見込みのない高額な貸し付けを行い、会社に不良債権を負わせたという場合です。
会社に損害を負わせるのが犯罪なのではなく、②どんな目的なのか、③任務に背いたと言えるかという点で判断が難しいケースがあります。

一方、不正競争防止法における営業秘密の侵害とは、簡単に要約すると、
ある状況下で営業秘密を知っている人
自分や第三者の利益のために又は会社の利益を害する目的
勝手に営業秘密を利用したり、保有したり、第三者に開示したりすること
です。

企業が保有する情報の全部が営業秘密に該当するのではなく、法律上保護される情報には一定の条件があります。(参考:『不正競争防止法と「営業秘密」』)

事業において有用な情報を盗み出す、いわゆる産業スパイがイメージしやすいものになります。
その他、退職時に顧客情報を持ち出す場合等も、営業秘密の侵害として不正競争防止法違反に問われる場合があります。(参考:『【報道解説】営業秘密が不正取得されたため損害賠償請求』)

それではこれらの法令に照らして、刑事罰に該当し得るかどうかを考えてみます。
まず、特別背任罪の適用についてですが、いずれの要件についても該当しない可能性が高いでしょう。
特に、①顧客情報を流用していたのが一般の従業員であった場合、特別背任となる余地がなくなります。また、④顧客情報の流用自体によって会社に損害を与えたとは言い難いでしょう。
確かに、社会問題化したことによって会社の信用が揺らいだかもしれませんが、特別背任罪は「財産上の損害」を犯罪としていますから、損害の要件も満たさない可能性が高いです。

次に、不正競争防止法上の営業秘密の侵害についてですが、これも、成立しない可能性が高いでしょう。
というのも、不正競争防止法は「営業秘密を管理している人にとって、想定外の情報の流出、漏洩を防止する」という目的で作られている法律です。

本件のような情報の「流用」の場合、情報を持っている人(本件で言うと株式会社ゆうちょ銀行に相当)が、自らの意思で日本郵政株式会社ないしは日本郵便株式会社等のグループ企業に情報を開示していたということになります。
そのため正当な権限の下で営業秘密を受け継いだことになり、不正競争防止法違反とはなりません。

本件のような情報の流用については、「会社に対して財産上の損害を与えたのか」、「情報の流用がどのような経路でなされたのか/不正な方法ではないか」という点が、ポイントになります。

【まとめ】

今回は、個人情報をリスト化した行為の問題点に関する解説記事の前編として、情報の流出」は刑事事件となるのか、情報の流出・漏洩が刑事事件となる2つのパターンの内の1つとなる会社の情報統制、内部規制としての問題について解説しました。

残りのパターンについては次回記事で後編として解説します。
気になる方は、ぜひこちらの記事もご覧ください。

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