覚せい剤の使用事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部が解説します。
◇事件◇
Aさんは、覚せい剤取締法違反の前科があり、最近は覚せい剤を使用していません。
しかし、かつて覚せい剤を使用していた時に知り合った人たちとの関係を絶ち切れておらず、今でも一緒に食事に行く等の付き合いを続けています。
そしてAさんは、その中の一人の女性と交際を始めたのですが、交際相手の女性は、覚せい剤の常習使用者で、これまで覚せい剤取締法で何度か警察に逮捕された歴があるようでした。
Aさんは交際している女性にこれまで何度も覚せい剤を止めるように言っていますが聞き入れてもらうことができていません。
それどころか、2日ほど前には、「覚せい剤を打ってくれ。」と頼まれたので、指示に従って女性の足の甲の血管に、水で溶かした覚せい剤の溶液を、注射器で注入したのです。
そして今朝、女性と歩いているところを、警視庁練馬警察署の警察官に職務質問され、任意採尿の後、女性は覚せい剤を使用した容疑で逮捕されてしまいました。
女性が覚せい剤を使用したのは、2日前にAさんが注射して上げて使用したのが最後です。
(フィクションです。)
◇覚せい剤の使用◇
覚せい剤を使用することは、覚せい剤取締法によって禁止されており、覚せい剤の使用で起訴されて有罪が確定すれば「10年以下の懲役」が科せられます。
~「使用」とは?~
覚せい剤取締法でいうところの「使用」とは、覚せい剤等を用法に従って用いる、すなわち「薬品」として消費する一切の行為をいいます。
使用方法に制限はなく、水に溶かした覚せい剤を注射器によって血管に注入する方法や、覚せい剤結晶を火に炙って、気化した覚せい剤を吸引する方法、覚せい剤を飲み物に溶かすなどして経口摂取する方法などがあります。
~「使用」の客体は?~
使用の客体は、人体に用いる場合が最も普通の使用例ですが、使用対象は、人体に限られず、動物に使用した場合も、覚せい剤の使用に該当します。
※他人に使用した場合もアウト※
今回の事件でAさんは、恋人に対して覚せい剤を使用していますが、この行為も覚せい剤の使用となり、刑事罰の対象です。
当然、覚せい剤の使用を依頼した恋人も覚せい剤の使用となり、Aさんと恋人は同じ覚せい剤の使用事件の共犯関係になるのです。
◇逮捕されるの?◇
上記したように、Aさんのように、人に対して覚せい剤を使用した場合も、覚せい剤の使用罪になりますし、すでに逮捕された恋人とは共犯関係に当たるので、口裏を合わせる等して証拠隠滅を図る可能性があることから、逮捕される可能性は非常に高いでしょう。
◇量刑は◇
もしAさんに、彼女に注射したのが覚せい剤だという認識がない場合などは、覚せい剤使用の故意が認められず不起訴となる可能性が出てきますが、Aさんに覚せい剤の前科があることから、そのようなかたちで故意を否認するのは難しいと考えられます。
単純な覚せい剤使用事件の場合、初犯であれば執行猶予付きの判決を得ることができるでしょうが、短期間の再犯の場合は2回目からは実刑判決が言い渡されることもあります。
今回の事件でAさんが起訴された場合、執行猶予付きの判決を得れるかどうかは、前科の数と、前刑との期間によるでしょう。