少額の万引き事件(窃盗罪)で、刑務所に長期服役した事例について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部が解説します。
少額の万引き事件でも長期服役の可能性がある
主婦のAさんは,令和2年1月3日、東京都大田区内にある100円ショップで日用品(販売価格108円)を万引きしたところ、保安員に見つかり、窃盗罪の現行犯で逮捕されてしまいました。
実はAさんは、過去5回、万引き(いずれも窃盗罪)で検挙されたことがあり、そのうち3回は刑務所に服役していました。
1回目の服役は平成23年12月1日から平成24月6月1日(懲役6月)まで、2回目は平成25年4月1日から同年12月1日(懲役8月)まで、3回目が平成30年3月1日から平成31年1月1日(懲役10月)まででした。
送致された際に、担当検察官から、窃盗罪ではなく常習累犯窃盗罪で起訴されることを聞いたAさんは、今後のことが非常に不安です。
(フィクションです。)
常習累犯窃盗罪とは
常習累犯窃盗罪は、万引きなどの窃盗罪を繰り返し、さらに窃盗既遂罪あるいは窃盗未遂罪を犯した場合に問われ得る犯罪です。
常習累犯窃盗罪は、「盗犯等ノ防止及処分二関スル法律(以下、法律)」の3条に規定されています。
~ 法律3条の要件 ~
法律3条の規定は以下のとおりです。
常習として前条に掲げたる刑法各条の罪又はその未遂の罪を犯したる者にしてその行為前10年内にこれらの罪又はこれらの罪と他の罪との併合罪に付き3回以上6月の懲役以上の刑の執行を受け又はその執行の免除を得たるものに対し刑を科すべきときは前条の例に依る
この規定を要約すると以下の通りです。
(1)刑法235条(窃盗)、236条(強盗)、238条(事後強盗)、239条(昏睡強盗)の罪又はこれらの未遂の罪を犯したこと
(2)1記載の犯罪を常習として犯したこと
(3)1記載の犯罪又はそれらの犯罪と他の犯罪との併合罪につき、懲役6月以上の刑の執行を受け又はその執行の免除を得たことがあること
(4)3が、行為前の10年以内に3回以上あること
となります。
(2)の「常習として」とは、反復して特定の行為を行う習癖をいいます。常習性の有無については、行為者の前科・前歴はもちろん、性格、素行、犯行の動機、手口、態様、回数などを総合的に検討して判断されます。
したがって、「常習性」の認定は前科のみで判断されるわけではありません。
◇常習性が否定された裁判例◇
過去の窃盗前科の犯行態様が、ドライバーを使って古いアパートの錠を外して侵入し現金を盗んだ、という人が、本件で、スーパーマーケットの缶詰2個を万引きしたという事案で、動機・態様を著しく異にしており、本件が窃盗の習癖の発現としてなされたものであるとは認められないとして常習性が否定された裁判例(東京高裁:平成5年11月30日)があります。
Aさんを検討
Aさんは、本件で万引き、つまり窃盗罪を犯しています。【(1)の要件】
(2)の常習性の判断は上記で記載した事情を総合して判断しますが、Aさんは過去の前科も万引きだったことからすれば常習性は認められやすいでしょう。
またAさんは、過去10年以内に、窃盗罪につき3回服役していることから(3)(4)の要件をみたしますので、Aさんは常習累犯窃盗罪に処せられる可能性が非常に高いといえます。
常習累犯窃盗罪の法定刑は?
法律3条では「前条の例に依る」とされています。
前条、すなわち法律2条を見ると、「窃盗を以て論ずべきときは3年以上の有期懲役に処す」とされていますから、常習累犯窃盗罪の法定刑は「3年以上の有期懲役」ということになります。
執行猶予付きの判決を受けるためには、「懲役3年以下」の判決の言い渡しを受けることが必要ですから、常習累犯窃盗罪に処せられると、基本的に実刑を覚悟しなければなりません。
しかし、法律上の減軽事由(刑法66条等)に当たる事情がある場合は、法定刑が減軽され、執行猶予付きの判決を獲得できるハードルを低めることはできます。
お困りの方は弁護士までご相談ください。