東京都江東区のひき逃げ事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部が解説します。
◇事件◇
先週末の深夜、会社員のAさんは彼女とドライブに行きました。
3年前に購入した愛車に彼女を乗せて東京湾まで夜景を見に行った後、彼女を自宅まで送り届けて帰路についたAさんは、街灯のない暗い道を走行中に、側道を走っていた自転車に接触する交通事故を起こしてしまいました。
接触後、しばらくして車を停止させてサイドミラーで確認すると、転倒した自転車の運転手は自ら起き上がっていたので、大した怪我ではないと思ったAさんは、警察沙汰になることをおそれ、事故現場から車で走り去ってしまいました。
事故の翌日、不安を感じたAさんが、事故現場に行くと、立て看板が立てられており、そこには、ひき逃げ事件で警視庁東京湾岸警察署が捜査していて、目撃者を探していることが明記されていました。
(フィクションです)
◇ひき逃げ◇
ひき逃げとは、自動車やバイクなどの運転中に人身事故・死亡事故を起こした場合に、負傷者の救護義務や危険防止措置義務を怠って事故現場から離れることで成立する道路交通法違反の犯罪行為です。
交通事故について自分の無過失が明らかな場合でも、負傷者を救助しないことや危険防止措置を取らないことは許されず、ひき逃げとして処罰されます。
◇ひき逃げ事件の罰則◇
ひき逃げの法定刑は、10年以下の懲役または100万円以下の罰金です(道路交通法第117条2項)。
ひき逃げについては、2006年の道路交通法改正によって罰則が強化され法定刑が加重されました。
また、2013年の自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(通称、自動車運転死傷行為処罰法)の新設により、アルコール又は薬物の影響の有無又は程度が発覚することを免れる目的でひき逃げを行った場合には、より法定刑の重い発覚免脱罪に問われる可能性があります(自動車運転死傷行為処罰法第4条)。
◇ひき逃げ事件を起こすと◇
~身体拘束(逮捕)の可能性は?~
警察等の捜査当局が、刑事事件を起こした犯人を逮捕するかどうかの判断基準の一つに、逃走のおそれがあるかどうかがあります。
ひき逃げは、実際に事故現場からいったん立ち去っているので、「逃走のおそれがある」と判断されがちです。
またもう一つの判断基準の一つが、罪証隠滅のおそれがあるかどうかです。
ひき逃げ事件の主な証拠品は事故を起こした車両です。
警察等の捜査当局は、事故を起こした車を押収しなければ、犯人が、車両の破損部位を修理したり、廃車にしたりして事故の隠ぺいを図ると判断して、ひき逃げの犯人を逮捕するケースが多いようです。
~刑事処分の見通しは?~
ひき逃げは人身事故・死亡事故を前提としているため、ひき逃げの多くのケースでは過失運転致死傷罪(自動車運転過失致死傷罪)又は危険運転致死傷罪でも刑事処罰を受けることになります。
刑事処分については、被害者の傷害の程度によって左右されることになりますが、死亡事故や怪我の程度が重い人身事故におけるひき逃げの場合には、実刑判決によって刑務所に入らなければならない可能性が高くなります。
◇弁護活動◇
~無罪・無実を目指す~
身に覚えがないにも関わらずひき逃げによる道路交通法違反又は自動車運転死傷行為処罰法違反の容疑を掛けられてしまった場合、弁護士を通じて、警察や検察などの捜査機関または裁判所に対して、不起訴処分又は無罪判決になるよう訴えていきます。
具体的には、アリバイや真犯人の存在を示す証拠を提出したり、被害者や目撃者の証言が信用できないことを指摘したりして、ひき逃げを立証する十分な証拠がないことを主張することで不起訴処分又は無罪判決を目指します。
実際に事故を起こしたのに車を停止しなかった(事故現場を離れてしまった)場合でも、交通事故を起こしたことに気付いていなかったのであれば、ひき逃げは成立しません。
客観的な証拠に基づく運転状況、事故現場の状況、被害者の行動等から、事故発生を認識するのが困難であったことを主張・立証することで、不起訴処分又は無罪判決を目指す弁護活動を行います。
~正式裁判の回避を目指す~
ひき逃げによる道路交通法違反又は自動車運転死傷行為処罰法違反に争いのない場合、警察への自首または任意出頭、交通事故の被害者や遺族への被害弁償と示談交渉を行うことが急務になります。
人身事故の際のひき逃げについては、警察への自首または任意出頭と示談の成立により、起訴猶予による不起訴処分又は略式裁判による罰金処分(正式裁判は行われない)を目指すことも可能です。
起訴猶予による不起訴処分となれば前科はつきません。
また、ひき逃げの事案では、警察への出頭や被害弁償・示談をすることで、逮捕・勾留による身柄拘束を回避して早期に職場復帰や社会復帰できる可能性を高めることができます。