あおり運転と威力業務妨害事件①

あおり運転と威力業務妨害罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部が解説します。

~事件~

1週間前に、会社員のAさんは東京都墨田区内で車を運転中に、前方を走行していた運送会社の軽トラックが低速で走行することに腹が立ち、この軽トラックを追い越して軽トラックの前に車を急停止させました。
そして軽トラックの運転手に文句を言ってやろうと車を降りて、運転手に対して「トロトロ運転するな!邪魔じゃ!」と怒鳴ったのです。
その後Aさんは車に乗り込んでその場を走り去りましたが、今朝、警視庁向島警察署の警察官から電話があり「急ブレーキをかけたことで、軽トラックを急停止して荷崩れを起こし、配送しようとしていた荷物が壊れた。」と言われ、出頭命令を受けました。
Aさんは、軽トラックの運転手を注意するために車を止めただけであって、自分の行為が刑事罰の対象になることに納得ができず、刑事事件に強い弁護士に相談することにしました。(フィクションです)

◇あおり運転◇

近年、あおり運転による事件、事故が世間を騒がせています。
2年前に、東名高速道路であおり運転に起因する死亡事故が起こってから、あおり運転が社会問題となっています。
警察等の捜査当局は、この事態を重く受け止めており、あおり運転(道路交通法違反)の摘発だけだなく、あおり運転に起因する事件、事故に対してあらゆる法令を適用して厳しい取り締まりを行っています。
そのため、このコラムにおいても「あおり運転」を何度か特集し注意を呼び掛けてきましたが、警察が摘発するあおり運転の件数は倍増しているようです。

◇あおり運転とは◇

一言に「あおり運転」と言っても、どの様な行為があおり運転になるのか分からない方も多いのではないでしょうか。
そこでまず初めに「あおり運転」に該当する可能性のある代表的な行為をいくつか紹介します。
(1)車間距離を詰める等の急接近や、幅寄せ
典型的なあおり運転の行為が、走行中の車に対する急接近や幅寄せです。
(2)急な割り込み
追い越し車線等から、走行中の車の前方に急に割り込む行為もあおり運転となるおそれがあります。
(3)急ブレーキ
走行中の車の前方で急ブレーキをかける行為は、後方の車が追突するおそれがる危険な行為で、あおり運転となります。
(4)パッシングやハイビーム、クラクション
走行中の車の後方から、パッシングを繰り返したり、ハイビームのまま走行する行為、クラクションを何度もならせば、相手を威嚇する行為として、あおり運転となる可能性があります。
(5)追随
走行中の車を追い回す追随行為は、相手を威嚇するだけなく、動揺した相手運転手が交通事故を起こしかねない危険な行為で、あおり運転となる可能性があります。

◇道路交通法違反◇

上記のようなあおり運転に対してまず適用されるのが道路交通法違反です。
あおり運転に適用される道路交通法で、代表的なものは「車間距離不保持」です。
そもそも道路交通法第26条では「車両等は、同一の進路を進行している他の車両等の直後を進行するときは、その直前の車両等が急に停止したときにおいてもこれに追突するのを避けることができるため必要な距離を、これから保たなければならない(道路交通法第26条抜粋)」と、運転者には、安全な車間距離を保持することを義務付けています。
通常の違反ですと、車間距離不保持は、交通反則通告制度の対象ですので行政罰の対象となりますが、違反態様が悪質な場合等で刑事事件化された場合、その法定刑は
・高速道路における違反
3か月以下の懲役または5万円以下の罰金
一般道の場合にも
5万円以下の罰金
です。

◇道路交通法以外の適用◇

暴行罪~刑法第208条~

人に対する不法な有形力を行使したときに適用されるのが暴行罪です。
上記したようなあおり運転の行為が「不法な有形力の行使」として捉えられて暴行罪が適用されることがあります。
暴行罪の法定刑は「2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料」ですので、上記した道路交通法違反(車間距離不保持)が適用されるよりも厳しい刑事罰が科せられる可能性が大です。

傷害罪~刑法第204条~

暴行によって人が傷害を負えば傷害罪が適用されます。
傷害罪は、上記の暴行罪の結果的加重犯として規定されている法律で、相手に傷害を負わせる意思は必要ありませんので、あおり運転によって、相手運転手が怪我をした場合「傷害罪」が適用される可能性があります。
傷害罪の法定刑は「15年以下の懲役又は50万円以下の罰金」と厳しいものです。

危険運転致死傷罪

東名高速道路で起こった事件の運転手には危険運転致死傷罪が適用されて、一審では「懲役18年」の判決が言い渡されました。(控訴中)
危険運転致死傷罪は、著しく危険な運転により事故を起こした場合に適用される法律で、その法定刑は、被害者が負傷した場合には「15年以下の懲役」、被害者が死亡したときには「1年以上の有期懲役」と、非常に厳しいものです。

明日は、Aさんに適用された威力業務妨害罪について解説します。

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