外国における刑事事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部が解説します。
◇事件◇
大学院に通うAさん(24歳)は、昨年までの3年間、アメリカに語学留学していました。
アメリカに留学している間、Aさんは、同じ留学生の日本人女性と交際していましたが、帰国する直前に、その交際女性が、別の男性とも交際していたことが発覚したのです。
帰国前にAさんは、交際女性をアメリカのホームステイ先に呼び出して追及しましたが、この女性が話を誤魔化したことに腹が立ち、女性の両肩を鷲掴みにする暴行を加えてしまいました。
その後、Aさんは女性と破局し、日本に帰国して別の女性と交際を始めましたが、元交際相手の女性が、当時の暴行で傷害を負ったとして、警視庁池袋警察署に傷害罪の被害届を提出したのです。
Aさんは、警視庁池袋警察署に呼び出しを受けましたが、警察署に出頭する前に、外国での刑事事件を取り扱っている弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所に相談しました。
(フィクションです。)
◇日本人が外国で起こした刑事事件◇
刑法第3条に「国民の国外犯」が規定されています。
日本国外において、この条文に規定された犯罪を犯した場合、日本の法律が適用されます。
「国民の国外犯」に規定されているのは
1.刑法第108条(現住建造物等放火)及び第109条第1項(非現住建造物等放火)の罪、これらの規定の例により処断すべき罪並びにこれらの罪の未遂罪
2.刑法第119条(現住建造物等浸害)の罪
3.刑法第159条から第161条まで(私文書偽造等、虚偽診断書等作成、偽造私文書等行使)及び前条第5号に規定する電磁的記録以外の電磁的記録に係る刑法第161条の2の罪
4.刑法第167条(私印偽造及び不正使用等)の罪及び同条第2項の罪の未遂罪
5.刑法第176条から第181条まで(強制わいせつ、強制性交等、準強制わいせつ及び準強制性交等、監護者わいせつ及び監護者性交等、未遂罪、強制わいせつ等致死傷)及び第184条(重婚)の罪
6.刑法第198条(贈賄)の罪
7.刑法第199条(殺人)の罪及びその未遂罪
8.刑法第204条(傷害)及び刑法第205条(傷害致死)の罪
9.刑法第214条から第216条まで(業務上堕胎及び同致死傷、不同意堕胎、不同意堕胎致死傷)の罪
10.刑法第218条(保護責任者遺棄等)の罪及び同条の罪に係る刑法第219条(遺棄等致死傷)の罪
11.刑法第220条(逮捕及び監禁)及び第221条(逮捕等致死傷)の罪
12.刑法第224条から第228条まで(未成年者略取及び誘拐、営利目的等略取及び誘拐、身の代金目的略取等、所在国外移送目的略取及び誘拐、人身売買、被略取者等所在国外移送、被略取者引渡し等、未遂罪)の罪
13.刑法第230条(名誉毀損)の罪
14.刑法第235条から第236条まで(窃盗、不動産侵奪、強盗)、刑法第238条から第240条まで(事後強盗、昏酔強盗、強盗致死傷)、刑法第241条第1項及び第3項(強盗・強制性交等及び同致死)並びに第243条(未遂罪)の罪
15.刑法第246条から第250条まで(詐欺、電子計算機使用詐欺、背任、準詐欺、恐喝、未遂罪)の罪
16.刑法第253条(業務上横領)の罪
17.刑法第256条第2項(盗品譲受け等)の罪
です。
Aさんの暴行行為によって、元交際相手の女性が傷害を負っていたのであれば、当然、傷害罪となるので、「国民の国外犯」が適用されます。
その場合、日本国外で起こった刑事事件であっても日本の警察が捜査することとなりますが、実際に日本で起こった刑事事件と同様の捜査が行われるとは限りません。
例えば、日本で起こった傷害事件であれば、防犯カメラの映像等の客観的な証拠が捜査されることになりますが、今回の事件のような傷害事件で捜査員がアメリカまで派遣される可能性は非常に低いでしょう。
そのため被害者と、被疑者の供述が基となって捜査が進むことになるので、警察等の取調べに対しては慎重に対応する必要があります。