カンニングに業務妨害罪が適用された事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部が解説します。
◇事件◇
今月11日、日本の大学へ入学を希望する外国人向けの試験「日本留学試験」でカンニングなどの不正行為を行った容疑で、中国籍の男性二人が、警視庁に偽計業務妨害容疑で逮捕されました。
逮捕容疑は、6月に東京都内で行われた「日本留学試験」を偽名で受験し、試験問題を眼鏡型カメラで撮影したり、問題冊子を持ち帰る不正行為を行い、試験を主催する独立行政法人日本学生支援機構の業務を妨害した疑いです。
逮捕された中国籍の男性は、日本留学試験の受験対策を手掛ける塾の幹部で、一部非公開の試験問題を入手して塾で使う目的で犯行に及んだのではないかとみられています。
(10月11日付けの「日本産経新聞」の記事から抜粋)
◇業務妨害罪◇
これまで何度かこちらのコラムでも紹介していますが、業務妨害罪には
●偽計業務妨害罪
●威力業務妨害罪
の2種類があります。
この2つの業務妨害罪に共通することは「人の業務を妨害する。」ということです。
「業務とは」…職業その他、社会的地位に基づいて継続して行う事務又は事業をいいます。営利を目的としたり、経済的なものである必要はなく、精神的、文化的なものであってもよいとされていますので、営利法人である会社の企業活動や、特殊法人の事業活動はもとより、政党、労働組合、慈善団体の行う事務、学校における教育事業等についても、業務妨害罪の「業務」に当たります。
「妨害行為」…業務妨害罪は、業務の平穏かつ円滑な遂行そのものを妨害する行為を対象とするもので、単に業務の内容の適性や公正を害するに止まるものは、業務妨害罪に適用を免れるとされています。
しかし例外として、通常は、業務の適性や公正を害するに止まるような性質の行為であっても、その行為の規模や程度、態様等によっては、業務の遂行そのものを妨害すると同視できるほどの危険性のある手段が用いられたと評価できる場合もあり得ます。そのような場合は、業務そのものを妨害する危険を有すると評価され、業務妨害罪が適用される場合もあります。
それでは、威力業務妨害罪と、偽計業務妨害罪の違いをみていきましょう。
~偽計業務妨害罪~
偽計業務妨害罪は刑法第233条に規定されている犯罪です。
その内容は「偽計を用いて人の業務を妨害すること」で、法定刑は「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」です。
「偽計とは」…人を騙したり、人の錯誤や不知を利用したり、人を誘惑したりする他、計略や策略を講じるなど、威力以外の不正な手段を用いることを意味します。
~威力業務妨害罪~
偽計業務妨害罪は刑法第234条に規定されている犯罪です。
その内容は「威力を用いて人の業務を妨害すること」で、法定刑は、偽計業務妨害罪と同じ「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」です。
「威力とは」…人の意思を制圧するような勢力を意味します。暴行、脅迫はもちろんのこと、社会的、経済的地位や権勢を利用し威迫行為や、多衆、団体の力の誇示、騒音喧騒、物の損壊など、およその人の意思を意思を制圧するに足りる一切の勢力を意味します。
~「偽計業務妨害罪」と「威力業務妨害罪」の違い~
2つの業務妨害罪は、「人の業務を妨害する」という点は同じですが、その手段として用いられるのが「偽計」なのか「威力」なのかによって、偽計業務妨害罪と威力業務妨害罪は区別されています。
◇カンニング行為には「偽計業務妨害罪」が適用される◇
カンニングのように、通常は、通常は業務の適正や公正を害するに止まります。しかし、業務の遂行そのものを妨害するようなものでない行為であっても、例えば、受験生のほとんどに試験問題が漏洩されて大規模なカンニングがおこなわれるなど、不正の規模が大きく、再試験を必要とするような場合には、試験の実施自体を妨害する危険を有するものとして偽計業務妨害罪が適用されることがあります。
今回の事件以外でも、過去には難関国公立大学の試験問題を試験中にネットに投稿した予備校生が警察に逮捕されるなどしています。