民家に押し入って泥棒した事件を例に、共犯事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部が解説します。
民家に押し入って泥棒
東京都西多摩郡に住むAさんは、先日会社を解雇され、無職となりお金に困っていました。
そんな中、Aさんは数年ぶりにパチンコ店で会った知人の男Bさんから、「お金に困っているの?」「空き巣の家を見つけたから家に入って貴金属を盗ってそれを売って金にしよう」ともちかけられ、この話に乗ることにしました。
犯行日当日、犯行場所で、AさんはBさんから「俺が中に入ってやるから、誰も来ないかどうか外で見張りをしていてくれ」と言われました。
そして、Aさんは外で見張りをしていたところ、被害者宅から貴金属を盗ってきたBさんから「中におばさんがいた。貴金属の在りかを吐かなかったので、ナイフで脅した」と言われました。
その後、AさんとBさんは現場から逃走しました。
そして、数か月後、警視庁青梅警察署に、Aさんは邸宅侵入罪と窃盗罪の共犯、Bさんは住居侵入罪と強盗罪で逮捕されてしまいました。
(フィクションです)
共犯とは
Aさんは共犯として逮捕されていることから、まずは、共犯の意義についてご説明いたします。
最も広い意味での共犯(最広義の共犯)とは、2人の以上の行為者が犯罪に加功した場合をいいます。
最広義共犯は任意的共犯と必要的共犯とにわけられます。
任意的共犯とは、本来は単独犯による犯罪実現が予定されている通常の構成要件(犯罪成立のための要件)を2人の以上の行為者が実現する場合をいい、広義の共犯ともいいます。
広義の共犯には
・共同正犯(刑法60条)
・教唆犯(刑法61条)
・幇助犯(刑法62条)
があり、教唆犯と幇助犯を狭義の共犯といいます。
必要的共犯とは、構成要件上、2人以上の行為者による犯罪実現を予定して規定されている犯罪をいいます。
例として、
・内乱罪(刑法77条)
・騒乱罪(刑法106条)
・贈賄罪(刑法198条)と収賄罪(刑法197条ないし197条の4)
があります。
このうち前二者を集合的犯罪(同一の目標に向けられている数人の行為者の集団的行為を独立の構成要件とするもの)と呼ぶのに対し、贈賄罪と収賄罪のように、相反する数人の行為者の対立的行為を独立の構成要件とする犯罪を対立的犯罪とも呼びます。
以上を図にすると以下のとおりとなります。
最広義の共犯 ――――― 必要的共犯
| (広義の共犯)
|
|―― 任意的共犯 ―――― 共同正犯
|
|――― 教唆犯
| (狭義の共犯)
|――― 幇助犯
共同正犯とは?
以上、一言で共犯といっても様々な種類があり、分類されることはお分かりいただけたと思います。
必要的共犯の場合は、犯罪そのものが共犯の形式を取りますから、任意的共犯、つまり、共同正犯、教唆犯、幇助犯が適用される余地はありません。
では、その他の犯罪の場合、任意的共犯が適用されるのはどんな場合なのでしょうか?
まずは、共同正犯から見ていきたいと思います。
共同正犯は刑法60条に規定されています。
刑法60条
2人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。
正犯あるいは正犯者とは、犯罪(基本的構成要件)に該当する行為(実行行為)を行う者のことをいいます。
刑法60条は、意思の連絡(共謀)の下に複数の者が関与した事案において、自己の犯罪を犯したと評価し得る重要な関与者を正犯とし、他人(Bさん)の実行行為及び結果につき、共同して行えば全て帰責される(刑事責任を負わされる)という「一部行為の全部責任の原則」を認める規定です。
共同正犯の成立要件
それでは、共同正犯が成立するためにはいかなる要件が必要なのでしょうか?
言い換えれば、他人が行った行為及びそれによって作出された結果を仲間内である共犯者にも帰責させるための要件とはいかなるものなのでしょうか?
共同正犯が成立するためには、主観的要件としての「共同実行の意思(意思の連絡=共謀)」、客観的要件としての「共同実行の事実」が必要です。
= 共同実行の意思 =
共同実行の意思とは、共同して実行行為をしようという意思のことをいいます。
共同加工の意思ともいわれます。
共同実行の意思は、2人以上の行為者全員が相互に持たなければなりません。
したがって、甲がVに暴行を加えている間、甲の知らない間に乙がVの財布を盗んだという場合、窃盗罪(あるいは暴行罪)の共同正犯は成立しません。
= 共同実行の事実 =
共同実行の事実とは、共謀した行為者が実行行為を分担することであり、共同加功とか行為の分担ともいわれています。
* 共謀共同正犯 *
ところで、共同して犯罪を行う場合、一部の者が指示役、残りの者が実行役というように、役割分担が決められている場合があります(近年、はやりの特殊詐欺がまさにこれに当たります)。
しかし、指示役は実際に犯罪を実行していませんから「共同実行の事実」が認められず、刑事責任を問えないかのようにも思えます。
そこで、判例は共謀共同正犯という理論を用いて、指示役にも共同正犯としての刑事責任を負わせています。
共謀共同正犯とは、2人以上の者が犯罪の共謀をし、そのうちある者が実行をすれば、実行を分担しなかった者の含めて共謀者の全員が共同正犯となるとする理論です。
今回の事件を検討
では、上記要件を本件に当てはめてみましょう。
まず、「共同実行の意思」ですが、AさんはBさんから「空き巣に入って貴金属を盗ってそれを売って金にしよう」ともちかけられ、Aさんはそれに対し「承諾」しています。
Bさんの誘いは、要は邸宅侵入罪及び窃盗罪の誘いであって、相互に意思連絡があると認められます。
ですから「共同実行の意思」の要件は満たします。
次に、「共同実行の事実」ですが、本件の実行行為を行っているのはBさんです。
しかし、上記でご説明したとおり、実行行為を分担していなくても共同正犯の成立を認めるのが現在の実務です。
しかも、Aさんは現場周辺で見張りをしています。
したがって、「共同実行の事実」の要件も満たしそうです。
以上より、Aさんは邸宅侵入罪、窃盗罪の共犯(共同正犯)で逮捕されています。
本件の疑問点
しかし、ここで一つの疑問がわきます。
・Bさんは強盗の罪を犯した
・Aさんには影響はないのか?Aさんの罪責は?
という点だと思います。
そこで、次回は、教唆犯、幇助犯についてご説明した上で、この点についてもご説明したいと思います。
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