【裁判例紹介】児童虐待に関する両親の責任や成立する罪は?児童虐待は初犯でも実刑判決になる?
児童虐待に関する両親の責任とそれに関する裁判例について,刑事事件に強い弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説をします。
1 児童虐待の概要
児童虐待には「身体的虐待」,「性的虐待」,「ネグレクト」,「心理的虐待」の4つの類型があります。
(参考HP:厚生労働省HP)
「虐待」の典型的な例として挙げられるのが殴る,蹴る,叩くといった「身体的虐待」です。
身体的虐待は文字通り,身体に対して直接的,間接的な暴力を加えることです。
この「身体的虐待」に対しては,暴行罪や傷害罪などが適用されるでしょう。
「身体的虐待」は大人が子供に対して直接手を挙げる行為です。
体格的にも大きく差がある大人から子供への暴力ですから,凄惨な事件に至ることも珍しくありません。
児童虐待については「児童虐待防止法」という法律に基づいて,児童相談所が相談対応をしています。近年の統計によると,毎年50人近い子供が虐待によって死亡しています。
そして虐待の被害者となっている子供の約4割が未就学児(0歳から小学校入学前)です。
虐待の被害者の多くが,より幼い子供であることが分かります。
2 児童虐待の親の責任
平成26年の統計によると,児童虐待の加害者の52%が実母,34.5%が実父となっており,虐待者の8割以上は実親となっています。
身体的虐待については,殴る,蹴る,叩く,と言った物理的な暴力が該当します。
これらは単なる「虐待」や,しつけとしてのせっかんの領域を超えており,暴行罪,傷害罪が成立します。
暴行罪は,「暴行を加えた」場合に成立します。
2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金,または拘留若しくは科料が科せられます。
傷害罪は,「人の身体を傷害」した場合に成立します。
暴行罪よりもさらに重く,15年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科せられます。
さらに,不幸なことに,虐待を受けた児童が死亡してしまった場合,傷害致死罪や殺人罪が成立することがあります。
児童に対して身体的虐待をした親に対しては,上記のような暴行罪や傷害罪,死亡してしまった場合には傷害致死罪や殺人罪が成立する可能性があります。
身体的な虐待は,児童の死亡という非常に悲惨な結果を招きかねない重大な犯罪と見られており,捜査機関も一切手を抜くことなく厳しく追及する姿勢です。
児童虐待として暴行罪,傷害罪で認知された場合,たとえ前科がない人であっても逮捕,勾留されたり,起訴されて前科がついてしまう可能性が非常に高い事案です。
児童虐待,身内への暴行,傷害でお悩みの方やそのご家族の方は,事が大きくなってしまう前に,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所までご相談ください。
3 児童虐待の裁判例
⑴ 裁判例の傾向として実刑もある
- 令和3年(2021年)に盛岡地方裁判所で判決が言い渡された裁判
1歳2か月の実子と,4か月の実子に頭に強い衝撃を与えて脳挫傷などの傷害を負わせたという事案で前科がないものの懲役8年の実刑判決が言い渡された。
- 令和2年(2020年)にさいたま地方裁判所で判決が言い渡された裁判
4歳の実子を突き飛ばして転ばせるなど,複数回の暴行をした事案で,前科がないものの懲役6年の実刑判決が言い渡された。
- 令和元年(2019年)に横浜地方裁判所で判決が言い渡された裁判
1歳6か月の実子の頭に強い衝撃を加えて硬膜下血腫の傷害を負わせた事案で,日常的な虐待はないものの悪質な事案であるとして懲役5年6月の実刑判決が言い渡された。
いずれの事案を見ても,重大な結果が生じている事案については,前科がない初犯の場合や,日常的な暴力を加えているわけではない事案(その時にカッとなって手を挙げてしまったという事案)だったとしても,5年を超える実刑判決が言い渡されているものがあります。
児童虐待としての暴行罪,傷害罪については刑事裁判に熟知した弁護士による公判弁護が重要です。
児童虐待について起訴されたという場合,捜査をされていて起訴されるかもしれないという場合には,一度弁護士にご相談ください。
⑵ 両親の連帯責任になるのか?
子供に対して手を挙げてしまった親自身が,種々の責任を問われることは特に不自然なところはありません。
しかし,その周りにいた/見ていただけ/止めなかっただけという場合にも,刑事罰に問われることがあるのでしょうか。
「片方の親の虐待を見て止めなかった」という場合にも,同様の責任を問われた裁判例があります。
大阪高等裁判所で平成13年6月21日に判決が言い渡された事案があります。
この判決は,
①両親が一緒になって子供Aに食事を与えないまま放置して死亡させた
②母親が子供Bに暴力をふるっている最中,父親に対して「止めないとどうなっても知らないから」と言ったところ,父親は無言で一瞬目を合わせて,すぐに逸らしたので,母親は暴力を続けて子供Bを死なせた
という2つの事件に関する裁判でした。
①については「両親が一緒になって子供にご飯をあげなかった/どちらかがご飯をあげてさえいれば死ななかった」というものなのですから,両親が二人とも責任を負うのは納得できるでしょう。
しかし,②の事案の父親のように「一方の親が虐待をしているのを見ていながらそれを止めなかった」という事案についても共犯として責任を負うとされています。
これが結論として正当かどうかという点については今でも議論があるところですが,「見ていたのに止めなかっただけ」という言い分は通じず,「暴力を止めさせる義務があったのに止めなかったのは,一緒に虐待していたのと同じだ」という判決があることには十分に注意しなければなりません。
虐待の事案については,直接手をあげてしまった人はもちろんのこと,それを周りで見ていた/止めなかったという人(親,家族)も同様の責任を問われる場合があるのです。
児童虐待や暴力でお困りの方や,どこに相談したらよいか分からないという方は,お気兼ねなくご相談ください。
たとえ家族に対してであっても,秘密厳守で相談していただけます。