練馬区の市道汚染事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部が解説します。
◆事件◆
大学生のAさんは、ツイッターやインスタグラムなどのSNSを趣味にしており、フォロアーを増やすことに喜びを感じています。
これまでAさんは、話題性のある動画や、面白い動画を投稿して順調にフォロアーを増やしてきましたが、最近はフォロアーの数が衰退しています。
そこでAさんは、インパクトの強い動画を投稿しようと考え、東京都練馬区にあるマンションの屋上に設置された受水タンクに飛び込んで、タンクの中で泳ぐ映像を投稿したのです。
この動画は瞬く間に拡散されて、ネット上でマンションの所在地が特定されるなどして、テレビのニュースなどでも取り上げられました。
そしてマンションの管理会社が警察に被害届を提出したことを知ったAさんは、自身のSNSを閉鎖しました。
今後、警察に逮捕されるのではないかと不安なAさんは、刑事事件専門の弁護士に相談することにしたのです。
(実話を基にしたフィクションです。)
◆水道汚染罪◆
刑法第143条(水道汚染罪)
水道により公衆に供給する飲料の浄水又はその水源を汚染し、よって使用することができないようにした者は、6月以上7年以下の懲役に処する。
あまり聞きなれない罪名ですが、最近、SNSに投稿された賃貸マンションの受水タンクで泳ぐ男性の動画が話題になり、この罪名に世間の注目が集まりました。また、5年以上前になりますが、兵庫県内では貯水槽にゴムボートを浮かべて遊んでいた少年等に対しても、この罪名が適用されています。
この法律は、人間の飲料水を汚染し、飲料水として使用できなくすることを禁止するものです。
つまり人間の飲料水を保護するための法律ですので、飲料水の信頼等で、公共性が強く、汚染された場合の影響が非常に大きなことから、その罰則規定も6月以上7年以下の懲役と厳しいものです。
この法律でいう「使用することができない」とは、飲料水として使用できないことですが、その理由は、物理的、生理的なものであると、生理的なものであるとを問わない。
視覚や、味覚、嗅覚等で異常を感じる場合に限らず、仮に外見等に何の異常も感じず、実際に供給を受けた人が汚染の事実を知らずに飲んでいたとしても、汚染行為の存在を知った時には、一般人がこれを飲料水として使用するのをためらうようであれば、この法律でいうところの「使用することができない」に該当します。
◆その他◆
今回のAさんの行為は水道汚染罪以外にも様々な法律に抵触する可能性がありますので、そのうちのいくつかを紹介します。
~建造物侵入罪~
建造物侵入罪は刑法第130条に定められている法律です。
建造物侵入罪は、正当な理由なく人の建造物に不法侵入することです。
Aさんは、受水タンクに入るために他人のマンションに不法侵入していますので、建造物侵入罪に抵触する可能性は非常に高いでしょう。
建造物侵入罪の法定刑は「3年以下の懲役又は10万円以下の罰金」です。
~威力業務妨害罪~
Aさんの行為によって、当然マンションの管理会社は受水タンクを洗浄する等の措置を取らなければいけませんので、Aさんの行為は、マンションの管理会社の業務を妨害したことになり、威力業務妨害罪が適用される可能性があります。
威力業務妨害罪の法定刑は「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。