人身事故~声掛けだけでは不十分~
人身事故を起こしてしまった場合に問題となる罪と、救護義務違反・報告義務違反について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部・八王子支部が解説致します。
【ケース】
東京都江戸川区在住のAは、江戸川区の会社に勤める会社員です。
ある日、Aは通勤のために江戸川区内の公道を車で運転していたところ、ランニングをしていた江戸川区内在住の高校生Vに気が付かず、接触してしまいVは転倒してしまいました。
Aは慌てて車から降りてVに声掛けしたところ、Vは足に擦り傷が出来ていましたが、「大丈夫です。」と返答したため、「何かあったら病院に行ってね」と伝え、Aはその場を離れました。
後日、江戸川区を管轄する小松川警察署の警察官がAの自宅に来て、ひき逃げ事件で取調べをしたい旨説明を受けました。
≪ケースは全てフィクションです。≫
【人身事故で刑事事件に】
自動車やバイクを運転していて事故を起こしてしまった場合、怪我人の有無により物損事故と人身事故に区別されます。
物損事故については、(他人所有の建造物などを破壊してしまった場合を除き)刑事事件の対象にはなりません。
しかし、人身事故については、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(通称、自動車運転処罰法)の定める過失運転致死傷罪が適用されます。
過失運転致死傷罪の条文は以下のとおりです。
自動車運転処罰法5条 自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。
刑事罰について、(1月以上)7年以下の懲役刑、又は(1万円以上)100万円以下の罰金と、刑事罰に幅があります。
実際に言い渡される刑罰は、被害者の人数や怪我の程度、過失の程度のほか、被害者との示談状況、反省の程度などを総合的に検討し、決められます。
※飲酒や薬物、速度超過、無免許運転など、正常な運転が困難な状態で運転をした結果人身事故を起こした場合、危険運転致死傷罪というより重い罪に問われます。
※人身事故の場合、上記に加え、行政上の責任として免許停止や取消、民事上の責任として損害賠償請求を受けることになります。
【人身事故後の通報は義務】
事故を起こした場合、必ず警察官に通報しなければいけないという義務があります。
道路交通法上、人身事故により被害者が負傷してしまった場合には救護する義務と、人身事故が発生したということを報告する義務があります。
道路交通法72条1項 交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。この場合において、当該車両等の運転者は、警察官が現場にいるときは当該警察官に、警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署の警察官に当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、当該交通事故に係る車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置を報告しなければならない。
一般的にひき逃げと呼ばれる行為は、この救護義務違反に違反した場合を指します。
救護義務に違反した場合の罰条は5年以下の懲役又は50万円以下の罰金です。(道路交通法117条1項)
また、仮に被害者が怪我をしていなかったとしても、警察に連絡をしなければ報告義務違反として、3月以下の懲役又は5万円以下の罰金に処されます。(同法119条1項10号)
【声掛けをしただけでは不十分】
ケースのAは、人身事故を起こした直後にVに声掛けをして重傷ではないことを確認しています。
そして、Vは大丈夫ですと返答をしたために、警察には通報をせずにその場を立ち去っています。
しかし、被害者に声掛けしただけでは十分ではなく、必ず警察官に通報しなければいけません。
Aはその義務を怠たり、怪我をしている被害者を救護することなく立ち去ったとして救護義務に違反します。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部・八王子支部は刑事事件・少年事件を専門とする弁護士事務所です。
東京都江戸川区にて、人身事故を起こしてしまい、被害者に声掛けはしたものの警察に通報をしなかったため、過失運転致傷罪と救護義務違反あるいは報告義務違反に問われている方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部・八王子支部に御相談ください。