【事例解説】不正競争防止法とは?元勤務先のデータを保管しておくと営業秘密の侵害に該当する?
不正競争防止法という法律をしっかりと理解できているという方は少ないかもしれません。
ただ、この不正競争防止法は、多くの人にとって意図せずに違反して罪に問われてしまう可能性がある法律なんです。
そこで、今回は不正競争防止法について、事例をもとに、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部が解説します。
【事例】
東京都中央区に住んでいるAさん(30代男性)は、とある製造業に勤めていましたが、キャリアアップのために同業他社へ転職することにしました。
その際、Aさんは勤めていた会社で調べた論文などのデータを一式、インターネット上のクラウドサーバーにアップロードして、何かあったときの参考にしようと思って保管していました。
転職後、Aさんが勤務を開始してしばらく経った頃、自宅に警視庁中央警察署の警察官が「不正競争防止法違反の疑いがある」と、捜索差し押さえ令状を持ってやってきました。
突然のことで動揺してしまったAさんですが、転職先で元勤務先のデータを勝手に使うなどの情報ろう行為をしていたわけではありませんでした。
不安に思ったAさんは、弁護士に相談することにしました。
(※この事例は全てフィクションです。)
【不正競争防止法違反とは】
不正競争防止法とは、企業間の公正な競争を確保し、産業の発展を目指すという目的のもとで作られた法律です。
難しく感じるかもしれませんが、ざっくりと言ってしまうと、他人の商品をパクったり、情報を漏洩したり、データを改ざんしたりするような不公正な競争行為はやめようね、正々堂々と企業間競争をしようねという法律です。
不正競争防止法では、「不正競争行為」として禁止されている行為の類型がいくつかあり、そのうちの一つに、営業秘密の侵害があります。
いわゆる、産業スパイ行為を禁止するものです。
元々、「情報」というものは目に見えず、法律上も保護が難しいものでした。
しかし、情報化社会が進み、目に見える財産と同じくらい「情報」が重要視されるようになり、その保護の必要性も高まっていったことから、営業秘密の侵害が法律でも規制されているのです。
営業秘密の侵害に対しては、10年以下の懲役または1000万円以下の罰金、もしくはその両方が課せられる可能性があります。
Aさんの行為が不正競争防止法の営業秘密の侵害に該当してしまうとなると、それだけの懲役刑や罰金刑に課せられるリスクが生じることになってしまうのです。
警察からの取り調べを受けるようになったということは、これらのリスクと隣り合わせの状態になったということです。
特に不正競争防止法の営業秘密の侵害が疑われる事案は単なる喧嘩や万引きの事案などとは異なり、特別刑法犯としてしっかりと専門知識のある弁護士の助言を受けながら対応すべき事件になります。
営業秘密の侵害の事案では、警察への取り調べももちろんですが、合わせて民事事件のことも考えた動きをしなければなりません。
営業秘密の侵害に関連した訴訟では、数百万円単位の損害賠償請求を受けるということも珍しくありません。
大企業感の営業秘密の侵害であれば、数億円以上の裁判になるのです。
ソフトバンク、楽天モバイル間では1000億円もの損害賠償を巡る裁判になっています。
(※参照記事:『楽天モバイルと楽天モバイル元社員に対する訴訟を提起 1,000億円規模の損害賠償請求権を主張』)
ここまで大きな裁判は稀ですが、いまや営業秘密はそれだけ大きな価値を有している会社の財産とも言えるのです。
【営業秘密の侵害とはなにか?】
ここで、「営業秘密ってどこまでの情報なんだ?」と思われる方もいるかもしれません。
不正競争防止法では、営業秘密について、次のように規定されています。
- 不正競争防止法第2条(定義)
(※第1~5項省略)
6 この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。
(※第7~11項省略)
営業秘密に当たる情報かどうかは、①秘密管理性、②有用性、③非公然性という要素をすべて満たすものを指すとされています。
①秘密管理性
秘密管理性というのは、当該情報を事業主が「秘密にしたい」という意思を持って管理している状況であるかどうかという点で判断されます。
例えば、資料に「社外秘」と書かれていたり、会社内の金庫付きのロッカーに保管されていたり(鍵は管理職のみが保持ないし持ち出すときには決裁が必要になるなど)という状況であれば、「会社にとっての秘密なのだな」と誰からもわかる状態です。
このような状況であれば、秘密管理性があると言えます。
逆に、会社の受付に資料として掲示されているものや、社内で誰でも見られる棚に置かれているというのであれば、秘密管理性を満たさない場合があります。
②有用性
有用性というのは、その情報が事業にとって意味のあるかどうかという点です。
秘密に管理している情報なのであれば、おおよそ事業にとって意味のある情報ですから、有用性があると言えます。
有用性がない情報というのは、従業員の私生活上の情報であるとか、会社の不祥事などの情報(有害物質を工場で垂れ流しているという情報など)については、事業に関連しない、秘密として保護するに値しない情報であるため、有用性がない情報であると言えます。
③非公然性
非公然性とは、世の中で知られていないということです。
例えば、自然化学の世界における法則や、数学の計算公式など、学術的に広く知れ渡っている情報は公然の情報であると言えます。
また、ニュース、雑誌、インターネットなどの情報媒体に載っている場合にも、非公然性を満たさない情報であると言えます。
これらの要素(①~③)が全て満たされた情報が営業秘密に該当するものであり、営業秘密をコピーしたり、社外に持ち出したり、第三者に提供したり、売買したり、利用させたりした場合には、営業秘密の侵害が成立することになってしまうのです。
Aさんのケースで具体的に考えてみましょう。
Aさんは、論文などのデータをインターネットクラウド上にアップロードしたということでした。
これらを、例えば自宅のPCでダウンロードしていたとなれば、情報の複製があったとなります。
そこで、そのデータが営業秘密に該当するかどうかが問題になります。
メーカーにとっても化学や物理学の論文は、事業への応用可能なものもあるでしょうから、有用性がある情報でしょう。
この情報が、社内で秘密に管理されていたものなのか、会社が作成して未公表の論文なのか、学術誌などにも掲載されているような論文なのかに応じて、営業秘密に該当するかどうかの判断が別れてくるでしょう。
【元勤め先との示談は?】
営業秘密の侵害が高額な損害賠償訴訟にまで発展するおそれがあるとなると、示談交渉をどうしたら良いかわからないという方もいらっしゃるでしょう。
ですが、前述のように、「そもそも営業秘密の侵害が成立しているのかどうか」をよく検討しなければならない場合があります。
よく見られる対応として、「元勤務先からデータの持ち出しを指摘されたので、慌てて消してしまい、会社からの請求に全て応じた」というものがあります。
必ずしも間違いであるとは言い切れないのですが、持ち出したデータによっては「営業秘密の侵害」が成立しないという場合もあり得るのです。
不正競争防止法の違反だと言われたり、警察が自宅に捜索差し押さえ令状を持ってやってきた、ということから、安易に判断をして事態を悪化させてしまうという方も、中にはいらっしゃいます。
刑事事件において示談は非常に重要ですが、事件の内容を正確に吟味したうえで行わなければなりません。
相手の言うままに示談に応じようとしたところ、とんでもない金額の損害賠償請求を受けてしまうという事案もあります。
不正競争防止法違反の事件で相手方と対応をするときにも、早めに弁護士にご相談・ご依頼ください。
不正競争防止法違反によって取調べを受けている、元勤務先から営業秘密の侵害をしたと疑われているという方は、刑事事件に特化した専門の法律事務所である弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
警視庁中央警察署の不正競争防止法違反事件の事件については、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部の弁護士が対応いたします。
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