文書偽造事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部が解説します。
◇事件◇
無職のAさんは、過去に携帯電話料金を滞納しており、新たに携帯電話機を契約することができません。
そのため携帯電話機を契約する際に必要となる身分証として、自動車の運転免許証を偽造しました。
この偽造運転免許証を所持して、車を運転中に交通違反してしまったAさんは、停止を求めてきた警視庁東村山警察署の警察官に対して、偽造運転免許証を提示してしまったのです。
(フィクションです)
◇文書偽造事件◇
~公文書偽造罪(刑法第155条第1項)~
行使する目的で、公文書を偽造した場合、「1年以上10年以下の懲役」になります。
~偽造公文書行使罪(刑法第158条第1項)~
偽造した公文書を行使した場合、「1年以上10年以下の懲役」になります。
◇文書偽造罪の種類◇
文書偽造罪は、公文書偽造罪と私文書偽造罪に分けられます。
公文書とは、健康保険証・運転免許証・戸籍謄本など役所や公務員が作成する文書のことを言います。
一方、私文書とは、申込書・誓約書・契約書など公文書以外の文書で権利や義務若しくは事実関係を証明する文書のことを言います。
文書偽造罪は、有印文書偽造罪と無印文書偽造罪にも分けられます。
印鑑が押してある・署名がされている文書を偽造した場合は、有印文書偽造罪に分類されます。
印鑑が押されていない・署名がされていない文書を偽造した場合は、無印文書偽造罪に分類されます。
刑法上文書偽造罪としては、以下の四つの類型が規定されています。
①無印公文書偽造罪
②有印公文書偽造罪
③無印私文書偽造罪
④有印私文書偽造罪
の4つの類型が規定されています。
有印文書は、無印文書に比べ、文書に対する公共の信用が高いため、有印文書偽造罪の場合には、重い法定刑が規定されています。
また、有印文書偽造罪の場合、罰金刑が定められていません。
よって、起訴されれば常に正式裁判によって懲役刑に問われることになります。
また、私文書偽造罪よりも公文書偽造罪の方が重く処罰されます。
◇行使目的◇
文書偽造罪において最も注意しなければならないのは、同罪が目的犯であるということです。
目的犯とは、一定の目的をもって犯罪行為をしなければ犯罪が成立しない犯罪をいいます。
文書偽造罪は、「行使の目的(偽造文書を人に見せ、あたかも本物の文書であると誤信させる目的)」がなければ成立せず、この点は、刑事裁判で争点となることがよくあります。
今回のケースでAさんは、偽造した段階で行使する目的(携帯電話を契約するために身分証として使用する目的)がうかがえますので、行使目的の偽造罪となるでしょう。
ただ、偽造した際の行使目的と、実際の行使が異なっています。これについては文書偽造罪の成立を左右するものではありませんが、文書偽造罪とは別に、偽造文書行使罪も成立します。
◇弁護活動◇
~無実の主張~
身に覚えがないにもかかわらず、文書偽造・偽造文書行使の疑いをかけられてしまった場合、弁護士を通じて積極的に無実を主張していかなければ、冤罪になりかねません。
具体的には、真犯人を示す証拠を提示したり、記入ミスや記載漏れが原因で文書偽造の故意がないことなどを主張したりします。
また、捜査機関の見解が十分な証拠に基づくものではない事を主張する場合もあります。
~被害弁償や示談交渉~
文書偽造罪・偽造文書行使罪の成立に争いがなく、これらの行為で被害が発生している場合、早急に被害弁償や示談交渉を進める必要があります。
文書偽造による被害が大きくない・組織的反復的な犯行でないなどの事情があれば、示談成立による釈放や起訴猶予による不起訴処分の可能性があります。
不起訴処分になれば、前科を回避でき日常生活に障害が発生することもありません。
ただ今回の事件でAさんが偽造免許証を行使した相手は警察官ですので、その場合は、示談は難しいでしょう。
~情状弁護~
文書偽造事件・偽造文書行使事件で有罪判決を免れないとしても、犯行態様や反省の態度など被告人に有利な事情を主張して、少しでも減刑されるように弁護します。
また、執行猶予付き判決の獲得も目指します。
~早期釈放・保釈のための活動~
文書偽造事件・偽造文書行使事件で逮捕・勾留されてしまっても、容疑者・被告人が早期に釈放・保釈されるように弁護活動を行います。
具体的には、客観的証拠に基づき証拠隠滅するおそれや逃亡するおそれがないことを主張することとなります。