建造物等以外放火事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部が解説します。
◇事件◇
大学生のAさん(22歳)は、東京都文京区の伯父の家に下宿しています。
大学を卒業後の就職先が内定しているAさんは、内定をもらってから友人と飲み歩く機会が増え、最近は生活が堕落し、伯父との仲も険悪になっていました。
そんなある日、一晩中飲み歩いて明け方に帰宅したことを、伯父に叱責されたAさんは、伯父の叱責に納得ができず、伯父と取っ組み合いの喧嘩になってしまいました。
お互いに興奮して収拾がつかなくなったことから、伯母が110番通報して、家には警視庁駒込警察署の警察官が臨場しました。
警察官によって伯父から引き離されたAさんは、居間で事情聴取を受けました。
警察官からも注意されたAさんは苛立ちが収まらず、一人になった時に、押入れ唐紙にほぼ接して吊り下げてあった、伯父のワイシャツに、持っていたライターで火を点けて放火しました。
異変に気付いた伯父によってすぐに火は消し止められましたが、Aさんはその場で、建造物等以外放火罪で現行犯逮捕されてしまいました。
(フィクションです。)
刑法では、放火について主に
①現住建造物等放火罪
②非現住建造物等放火罪
③建造物等以外放火罪
の罪があります。
まずは、それぞれの放火罪がどのような犯罪なのかを解説します。
◇現住建造物等放火罪◇
現に人が住居として使用している建物若しくは現に人がいる建物に放火すれば「現住建造物等放火罪」となります。
人の家や、人がいる建物に放火するという点で、人の生命、身体に危害を加える可能性が非常に高いことから、その法定刑は非常に厳しく「死刑又は無期若しくは5年以上の懲役」です。
◇非現住建造物等放火罪◇
上記した現住建造物等放火罪とは逆で、現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない建物に放火すれば「非現住建造物等放火罪」となります。
非現住建造物等放火罪は、放火した建物が「自己所有」の場合と「自己所有以外」の場合によって罰則規定が異なります。
自己所有以外の非現住建造物等放火罪の法定刑は「2年以上の有期懲役」ですが、自己所有の非現住建造物等放火罪の法定刑は「6月以上7年以下の懲役」です。
また自己所有の非現住建造物等放火罪は、「公共の危険を生じなかったときは、罰しない。」と規定されています。
ここでいう「公共の危険」とは、具体的に不特定又は多数人の生命、身体、財産に脅威を及ぼす状態を意味します。(具体的危険犯)
◇建造物等以外放火罪◇
上記した「現住建造物等放火罪」及び「非現住建造物等放火罪」に規定する以外の物、つまり建造物以外の物に放火すれば、「建造物等以外放火罪」となります。
建造物等以外放火罪も、非現住建造物等放火罪と同様に、放火した者が自己所有の物かどうかで罰則規定が異なります。
自己所有以外の建造物等以外放火罪の法定刑は「1年以上10年以下の懲役」ですが、自己所有の建造物等以外放火罪の法定刑は「1年以下の懲役又は10万円以下の罰金」です。
建造物等以外放火罪は、具体的危険犯ですので、放火によって、具体的に不特定又は多数人の生命、身体、財産に脅威を及ぼす状態に陥った場合にしか成立しません。
◇Aさんの事件を検討◇
Aさんは、ワイシャツに火を点けていますので、その行為が建造物等以外放火罪に当たることは間違いないでしょう。
ここで問題となるのは、ワイシャツに放火したことによって、具体的に公共の危険が発生したかどうかです。
Aさんが火を点けたワイシャツは、押入れ唐紙にほぼ接して吊り下げていたので、おそらく、火のついたワイシャツをそのまま放置すれば、押入れ唐紙に燃え移り、そこから伯父の家その物を焼損した可能性は十分にあるので、具体的な公共の危険が認められるのではないでしょうか。